※2023年10月30日16時59分更新
豪ドル見通し: 強気
先週のオーストラリアドルは、豪消費者物価指数(CPI)とオーストリア準備銀行(RBA、中央銀行)の動きが為替相場の動きを左右し、0.6270―0.6400間で上下に振れた。
全体として、市場はRBAの示す見通しに耳を傾けていないように見える。下記は過去2週間におけるRBA当局者の発言である。筆者の過去の記事を読んでいる場合は重複する部分もあると思うが、再確認する価値はある。
10月11日(水) - クリス・ケントRBA総裁補佐は、「まだ高すぎるインフレ率を目標水準に確実に戻すためには、さらなる引き締めが必要かもしれない」と述べた。
10月17日(火)- RBAの10月理事会の議事要旨が公表され、「理事会は、インフレ率の目標値への戻りが現在予想されているペースより遅くなることを許容しがたい。従って、追加利上げが必要かどうかは、今後発表される経済指標、それらが経済見通しやリスク評価をどのように変化させるかにかかっている」との見解が示された。
10月18日(水)-ミシェル・ブロックRBA総裁は、「問題は、ショックに次ぐショックが続いていることだ。たとえそれが供給ショックによるものであったとしても、インフレ率が上昇を続ければ続けるほど、人々は考え方を適応させていく」と述べた。
10月24日(火)-ミシェル・ブロックRBA総裁は、インフレ率を低下させる政策に関して次のように述べた。「キャッシュレートを現在の水準に据え置くことで、これを達成することは可能だが、インフレ率が目標水準に戻るのが現在の予想より遅くなるリスクがある。インフレ見通しがしっかりと上方修正された場合、理事会はさらなる利上げを躊躇しない。」
ブロック総裁はまた、「理事会は、インフレ率が現在の予想よりも緩やかに目標に戻ることを容認しがたいと明言している」とも述べた。
10月25日(水)- 豪CPIは予想を上回る結果となった。最も重要なのは、2023年7―9月期(第3四半期)は、前期比での伸び率がCPI総合指数、トリム平均値ともに再び加速した点である。豪CPIを分析したレポートはこちらをクリックしてください。
10月26日(木) - ミシェル・ブロックRBA総裁は上院公聴会に出席し、11月7日の理事会(金融政策会合)で利上げを実施するかどうかという質問に対し、「まだ分析中だ」と答えた。
引き締めが正当化されるかどうかを検討するために理事会が開かれるのは1週間半後であり、世界的に展開されている劇的な出来事を考えれば、文字通り、今からそれまでの間に何が起こってもおかしくない。
とはいえ、現在分かっているところでは、1週間前のレポート(英語のみ)で指摘したように、来月の理事会で25ベーシスポイント引き上げられる可能性がある。
一部の主要メディアは、このような慎重な動きを歓迎している。マクロ経済に明るくない人々は、舵取りが効かない高インフレが社会にもたらす大混乱とダメージに気づいていないようだ。
アルゼンチンはかつて世界の大国だった。現在は年率130%のインフレで、人口の40%が貧困層である。
1930年代にワイマール共和国(ドイツ)で見られたハイパーインフレは、最終的に第2次世界大戦勃発の重大な要因だったと多くの歴史家が指摘している。
金融引き締めはさまざまな不快感をもたらし、社会の集団の中には大きな苦痛や負担が伴う場合がある。暴走する物価の代償は非常に大きい。
しかし豪ドルの行方は、RBAの金融政策次第とも言える。米ドルはいつも通りの動きを見せ、為替市場を支配している。
世界最大の経済大国である米国の国債利回りは、この2週間で劇的に上昇し、金融市場に多くの変化球を投げつけた。
このため、多くの資産クラスでボラティリティが上昇し、豪ドル/米ドル にとっては厳しい状況だ。
金、原油、債券、株式のボラティリティ
資料:TradingView
値動きが激しくなると、投資家やトレーダーはしばしば、リスク資産の損失をカバーするために素早くポジションを解消する傾向がある。
「高ベータ値」通貨とみなされている豪ドルは、旺盛なリスク選好と明るい世界経済見通しから恩恵を受けるが、こうした状況が逆転すると苦境に立たされる。
円は、市場では豪ドルとは正反対の通貨とみなされることが多く、不透明な局面ではディフェンシブ通貨としての特徴を見せることがある。
ただ、日本銀行(BOJ)が極端に緩和に傾いた金融政策を維持しているため、最近はその限りではない。
米ドル/円が、日銀が当時、ドル売り・円買い介入を実施した水準である2022年10月の高値151.95に向けて上昇し続ければ、日銀は介入に動くとの憶測がある。
その場合、豪ドル/円には下落圧力がかかる可能性があり、オーストラリアのエネルギー輸出企業にとっては収益の改善につながるかもしれない。日本はオーストラリアの石炭と液化天然ガス(LNG)の最大の輸入国である。
オーストラリアは毎月貿易黒字を出し続けており、豪ドル/米ドル、豪ドル/円ともに為替レートが低いことがずっと国内経済を支えている。
オーストラリアの採鉱業者にとってさらにプラスな材料は、以前は冷え込んでいた中国との緊張関係の雪解けだ。
アンソニー・アルバニージー豪首相は今週、中国を訪問する予定で、両国が関係改善を模索していることが早くも示されている。
今週の豪ドル市場では、豪小売売上高、建設許可件数、貿易収支の発表が注目されている。
1日には米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定会合も控えている。オーストラリア競馬最大の重賞レース「メルボルン・カップ」と同じ11月7日(火)に開催されるRBA理事会までは、FRBの動きが豪ドルの原動力となるかもしれない。
豪ドル/米ドル テクニカル分析
テクニカル分析の観点からは、豪ドル/米ドルは強気と弱気が混在している。
弱気の三角移動平均(TMA)指標は、下降トレンドチャネルと共にそのまま維持されている。
弱気の三角移動平均(TMA)を形成するには、価格が短期の単純移動平均線(SMA)を下回っている状態で、なおかつ短期SMAが中期のSMAを、中期SMAが長期SMAを下回っている必要がある。また、すべてのSMAが下降して(右肩下がりで)なければならない。
10日SMA、21日SMA、55日SMA、100日SMA、200日SMAを見ると、これらのSMAはTMAの基準を満たしており、弱気のモメンタムが進展していることを示唆している。
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とはいえ、26日の安値は、2022年11月の安値0.6270近辺を割り込まなかった。下降トレンドラインは何度か試されているが、下方ブレイクはしていない。
下値が切り下がらないため、底固めとなる可能性がある。
レジスタンスは0.6500―0.6510エリアの過去の高値圏になるかもしれない。さらに上では、いくつかのブレイクポイントと過去の高値がある0.6600―0.6620ゾーンが控えている。
下降局面では、過去の安値である0.6285、0.6270、0.6170付近がサポートとなる可能性がある。
フィボナッチ・エクステンション161.8%の水準0.6186もサポート候補である。
豪ドル/米ドル 日足チャート
資料:TradingView
豪ドル/円 テクニカル分析
豪ドル/円はレンジ相場が続いているが、投資の機会をもたらすかもしれない。レンジトレードについて詳しく知りたい方は、下のバナーをクリックしてください(無料)。
豪ドル/円はこの4カ月間、ほぼ93.00―97.00間で取引されている。レジスタンスは、過去の高値とブレイクポイントが存在する95.85―96.05エリアとなる可能性があり、その上には96.80―97.00エリアがレジスタンス候補として控えている。
下降局面では、93.59のブレイクポイント近辺が直近のサポートになりそうで、その下には過去の安値やブレイクポイントが収束する92.80―93.00のサポートゾーンがある。
さらに下値では、92.30と92.44のブレイクポイント、7月の安値91.80に近いフィボナッチ・リトレースメント50%の水準91.85がサポートとなるかもしれない。
また、フィボナッチ・リトレースメント61.8%の水準90.50もサポートとなる可能性がある。
豪ドル/円 チャート
資料:TradingView
--- DailyFX.com ストラテジスト ダニエル・マッカーシー著
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