※2024年5月22日更新
「強い経済指標が相次いだことを受けて、中央銀行の総裁がわずかにタカ派に転じた」といった報道を耳にしたことがあるのではないでしょうか?ハト派・タカ派とは、中央銀行が金融政策の引き締めを目指しているか(タカ派)、緩和を目指しているか(ハト派)を指す言葉です。
中央銀行の政策決定者は、金利の引き上げか引き下げかを判断し、その決定はFXに大きな影響を与えます。金利を引き上げる目的は、景気の過熱を防ぐため(インフレ率が過度に高くなるのを防ぐ)である一方、金利を引き下げる目的は、景気を刺激するため(デフレを防ぎ、GDPの成長を促す)です。
ハト派とタカ派の政策は、「フォワードガイダンス」と呼ばれる中央銀行の仕組みによって為替レートに影響を与えます。金融政策の方向性について、政策決定者が市場に向けて可能な限り透明性を確保しようとしていることを意味しています。
本記事では、ハト派とタカ派の違いや、金融政策をFXに活用する取引方法について解説します。
ハト派とタカ派の違いは?
そもそもハト派とタカ派は、政治に対する姿勢を表す言葉として使われています。ハト派は、平和主義的で穏健的な考え方を持つ政治家や集団を指す言葉です。反対に、タカ派は強硬な姿勢や攻撃的な政策を推し進める政治家や政策立案者を指し、武力行使や強硬手段を辞さないことが特徴です。
一方で、投資や金融の分野において、ハト派・タカ派は金融政策の姿勢に対する言葉として、下図のように使われています。
続いて、金融政策におけるハト派とタカ派の違いについて詳しく解説します。
金融政策におけるハト派とは
金融政策におけるハト派とは、中央銀行が景気刺激のために金利を引き下げたり、量的緩和を拡大したりするような姿勢のことです。中央銀行が経済成長に対して悲観的で、インフレ率の低下やデフレ化を予想し、中銀の見通しやフォワードガイダンスを通じて市場にそれをシグナルとして伝えている場合、ハト派的と言われます。
ハト派的な金融政策を表す言葉として、以下が挙げられます。
- 弱い経済成長
- インフレ率の低下/デフレ(マイナスのインフレ率)
- バランスシートの拡大
- 金融政策の緩和
- 金利の引き下げ
金融政策におけるタカ派とは、中央銀行が、金利の引き上げやバランスシートの縮小による金融政策の引き締めを見せる姿勢のことを表します。将来の利上げを予想していれば、金融政策のスタンスはタカ派的であると言われます。また、中央銀行が経済成長の見通しに肯定的で、インフレ率の上昇を予想している場合も、タカ派的と言えます。
タカ派的な金融政策を表す言葉としては、以下のようなものがあります。
- 強い経済成長
- インフレ率の上昇
- バランスシートの縮小
- 金融政策の引き締め
- 金利の引き上げ
一般的に、インフレ率の上昇、金利の上昇、堅調な経済成長を示す言葉は、よりタカ派的な金融政策結果に傾きます。
下表は、ハト派とタカ派の金融政策をより詳細に比較したもので、両者の違いと通貨への影響を表しています。
タカ派的な金融政策 | ハト派的な金融政策 |
---|---|
インフレ圧力を抑えるための金利引き上げ →高金利の通貨に資金が流入するため、通貨が上昇する可能性があります。 | 金利を引き下げて経済を刺激します。 →低金利の通貨に資金が流入するため、通貨が下落する可能性があります。 |
国債の売却により、バランスシートを縮小します。 →国債が売られることで金利が上昇し、通貨が上昇する可能性があります。 | QE(量的緩和)によりバランスシートを拡大します。中央銀行が、金融機関が保有する国債などを購入して市中に出回る通貨供給量を増やし、経済を刺激することです。 →マネーサプライが増えれば通貨に対する需要が減るため、通貨は下落する可能性があります。 |
中央銀行のフォワードガイダンスには、経済、経済成長、インフレ見通しに関するポジティブな発言が含まれます。 →投資家が追加利上げを予想すれば、通貨が上昇する可能性があります。 | 中央銀行のフォワードガイダンスには、景気や経済成長、デフレの兆候などに関するネガティブな発言が含まれています。 →投資家が利下げを予想すれば、通貨が下落する可能性があります。 |
中央銀行がハト派からタカ派へ、あるいはその逆へと姿勢を変えたときに、通貨は最も大きく動く傾向があります。例えば、中央銀行の総裁が、「経済にはまだ刺激が必要だ」とハト派的な発言をしていたのに、その後の講演で「インフレ圧力の上昇と力強い経済成長が見られる」と述べた場合、その通貨が他の通貨に対して上昇することがあります。
FOMCとハト派・タカ派の関係性とは
ハト派とタカ派は、特定の金融政策を決定する役割を持つ会議であるFOMC(米連邦公開市場委員会)などで使われます。
FOMCとは、米国の中央銀行の役割を果たすFRB(米連邦準備制度理事会)が行う金融政策を決める組織のことです。このFOMCに出席するのは、FRBの議長や副議長など理事7人と、全米12地区の連邦準備銀行の総裁など、合計19人です。1年に8回開催されるFOMCでは、米国の金融政策が多数決によって決まり、多数を占めた方がそのまま金融政策の内容に反映されます。例えば、ハト派メンバー11人、タカ派メンバー8人などの状況では、ハト派の意見が多数を占めるため、よりハト派的な金融政策が採用されることになります。
つまり、FOMCのメンバー間では、ハト派かタカ派かという立場が非常に重要になります。それぞれの派閥が金融政策にどのような影響を及ぼすかは、多くの市場参加者が注目しています。そのため、新たなメンバーが加わる際や、既存メンバーの政策に対する発言などが報道されると、その人物がハト派かタカ派かによって市場の反応も大きく変わる可能性があります。
中央銀行の金融政策におけるハト派・タカ派を活用した取引方法
中央銀行の姿勢が少し変わっただけでも、通貨に大きな影響を与えるかもしれません。トレーダーは、FOMCと議事録に注目して、追加の利上げや利下げを示唆するような変化を探すことが重要です。
以下の画像は、さまざまな中央銀行の現在の金融政策スタンスを示しています。中央銀行の金融政策のスタンスが左寄り(ハト派)に傾くと、その国の通貨は他国の通貨に対して下落する可能性があります。一方で、金融政策のスタンスがより右寄り(タカ派)になれば、その国の通貨は上昇する可能性があります。
※2019年1月1日時点での金融政策のスタンス
ただし、タカ派やハト派の政策を活用した取引は、単純にタカ派の中央銀行の通貨を買ったり、ハト派の中央銀行の通貨を売ったりすればよいというほど簡単ではありません。金利見通しの変化をうまく利用する必要があります。
FRB議長の発言で金融政策の姿勢が変化したことがチャートに表れた例
以下2つのシナリオをもとに、ハト派・タカ派が米ドル指数の値動きに影響を与えた例を紹介します。
シナリオ1 | シナリオ2 |
---|---|
中央銀行が現在、利上げサイクルに入っている場合、市場はすでに将来の利上げを予想しているでしょう。手がかりを探して経済指標を注視してください。中央銀行の姿勢が現在よりもタカ派に、あるいはハト派に変化する可能性があります。金融政策の姿勢が変化すると、通貨は大きく動くことがあります。 | ある中央銀行が現在利下げ基調にあり、経済指標が悪化した場合、市場は現在のハト派的な金融スタンスを織り込むと考えられます。トレーダーは、中央銀行のフォワードガイダンスと経済指標を注視しなければなりません。なお、中央銀行が現在よりもハト派的になるか、あるいはタカ派的になるかの手がかりを得るために、経済指標カレンダーを参考にしてください。 |
2018年の終わりは、連邦準備理事会(FRB)はかなりタカ派的でした。FRBのパウエル議長が「現時点では中立金利からかなり離れている」と発言したことで、市場はタカ派的と受け止めました(2018年10月2日)。この発言は、FRBが中立金利に到達するためには、まだ何度も利上げをしなければならないことを示唆しています。
以下は、15分足の米ドル指数のチャートです。縦線は2018年10月2日を示します。
2018年10月2日、パウエルFRB議長の発言により、米ドルが上昇に転じています。
その後11月28日には、FOMCが公表した金融政策に関する声明で「金利は中立金利を若干下回る」水準にあるとの認識を、パウエルFRB議長は示しました。上記のシナリオ1のように、中央銀行がタカ派からややハト派へと姿勢を変化させる状況を示しています。そして、以下のチャートで確認できるように、米ドルが下落しました。
米ドル指数 15分足チャート
上記の通り、中央銀行の金融政策がハト派、またはタカ派に変化する情報を読み取ることでチャートの値動きを予測できます。
投資する通貨の国の金融政策を見極める
例えば、ハト派的政策、つまり低金利や金融緩和策が行われる場合、株価は上昇しやすくなります。なぜなら、企業の資金調達コストが下がり、経済活動が活発になるからです。
一方、タカ派的政策、つまり高金利や金融引き締め策が行われる場合、債券価格は上昇しやすくなります。投資家は安定したリターンを求め、リスクの高い投資から債券へと資金を移す傾向があるからです。
投資先の国における金融政策の動向を見極め、適時に投資ポートフォリオを調整することで、より効率的な投資が可能となります。
まとめ
本記事では、ハト派とタカ派の違い、FOMCとハト派・タカ派の関係性、金融政策のハト派とタカ派を活用した取引方法について解説しました。
ハト派とタカ派は金融政策の姿勢を表し、金利や通貨に影響を与えます。そのため、ハト派とタカ派の違いを理解することで、自身の投資方針を見定められるでしょう。
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