香港ハンセン指数(HSI)は、香港の株式市場全体を表すベンチマークです。アジア太平洋地域で最も流動性が高く、広く取引されている株価指数の1つです。この記事では、香港ハンセン指数の概要と構成銘柄、取引方法、取引に役立つヒントについて解説します。
香港ハンセン指数とは
香港ハンセン指数(HSI)とは、香港証券取引所(HKEX)を代表する株価指数のことです。1969年11月に導入されて以来、香港株式市場全体の動きを表す指数として用いられています。この指数は浮動株調整後の時価総額加重型ベンチマークで、香港証券取引所の株式時価総額の約半分を占める80銘柄で構成されています。1つの銘柄が支配的になるのを避けるため、各構成銘柄の構成比率は10%が上限となっています。香港ハンセン指数は、米ドルとペッグする香港ドル(HKD)で値付けされ、取引されています。
香港株式市場は、アジアでは中国本土と日本に次いで3番目に大きく、その全体の株式時価総額は2021年1月11日時点で67,039億米ドルです。これは、世界全体の株式時価総額の約6.3%で、シンガポール株式市場の15倍以上の規模にあたります。
時価総額(単位:億米ドル) | 世界全体に占める割合(%) | |
---|---|---|
世界の証券取引所の株式時価総額 | $ 1,059,599 | 100.0% |
米国の証券取引所の株式時価総額 | $ 438,256 | 41.4% |
中国の証券取引所の株式時価総額 | $ 111,755 | 10.5% |
日本の証券取引所の株式時価総額 | $ 69,152 | 6.5% |
香港証券取引所の株式時価総額 | $ 67,039 | 6.3% |
英国の証券取引所の株式時価総額 | $ 33,999 | 3.2% |
オーストラリアの証券取引所の株式時価総額 | $ 16,862 | 1.6% |
シンガポール証券取引所の株式時価総額 | $ 4,652 | 0.4% |
出所:Bloomberg、DailyFX 2021年1月時点
香港ハンセン指数と他の指数との違い
香港ハンセン指数は、その企業の時価総額に基づいて加重します。そのため、大きな企業ほど指数に与える影響力が大きくなるため、市場全体の動向を反映しています。これは、英国のFTSE100種総合株価指数やドイツのDAX指数と同じ方式です。
これらの指数とダウ・ジョーンズ工業株価平均(NYダウ平均)との違いは、ダウ・ジョーンズ工業株価平均が1株あたりの株価に基づいて企業を評価する点にあります。つまり、株価の高い企業ほど指数への影響力が大きくなります。そのため、同じ規模の企業でも株価が高ければインデックスへの影響力が大きく、株価が低ければ影響力が小さくなるという特徴があります。
また、名称が似ている「ハンセン中国企業指数」は、香港に上場している中国本土の企業、いわゆる「H株」の中から選ばれた50銘柄の株価を追跡しています。
香港ハンセン指数の構成銘柄と構成比率
2023年10月時点で、香港ハンセン指数は80銘柄で構成されています。相次ぐハイテク・IT企業の新規株式公開(IPO)と、中国と米国政府間の緊張の高まりを受けた中国企業の帰還による上場の増加により、構成銘柄が増加しました。この背景には米中の貿易戦争と、それに次いで2018年から続いている技術と知的財産、そして国家安全保障をめぐる紛争がありました。
2020年に、電子商取引最大手アリババ、ハードウェアメーカーのシャオミ、バイオテクノロジー企業ウーシー・バイオロジクスなどのハイテク企業が香港ハンセン指数に追加され、従来の構成銘柄の一部と入れ替わりました。そして、2021年には構成銘柄を100まで増やすと公表しています。
香港ハンセン指数の構成銘柄は、四半期ごとに見直しが行われます。市場の動向を捉え、指数が常に最新の市場状況を反映するようにするためのものです。そのため、新興企業や業績回復企業など、新たに選ばれる銘柄が出てくる可能性があります。また、香港証券取引所に上場してからの経緯も重要な選考基準となります。上場から3ヶ月間経過していない企業は、その時点では選ばれません。
香港ハンセン指数のベンチマークには、金融、公益、不動産、商工業の4つの業種別指数があります。香港ハンセン指数全体の47%は商工業で、テンセント、アリババ、シャオミ、美団など評価の高いハイテク企業が含まれています。金融業は43%と2番目に大きな構成比率を占め、HSBC、コースタル・ファイナンシャル(CCB)、中国工商銀行(ICBC)などの大手銀行と、AIA、ピンアンなどの保険会社が含まれます。
この指数構成に伝統産業が近年占める割合の縮小を反映して、不動産と公益事業の構成比率は残りの10%となっています。また、業種別指数の組み合わせは少なくとも2年ごとに見直されます。
出所:hsi.com.hk、DailyFX
香港ハンセン指数の構成銘柄はさらに、以下のチャートに示される業種に分類されます。金融(34.08%)、IT(28.49%)、一般消費財(9.83%)を合わせると香港ハンセン指数全構成比率のほぼ4分の3を占めます。一方、この3セクターの構成銘柄数は80銘柄中34銘柄にすぎません。香港ハンセン指数が時価総額の大きい一握りの銘柄に集中している度合いが高く、日々のパフォーマンスがそれら大型株の動きによって大きな影響を受ける可能性があることを示唆しています。
出所:hsi.com.hk
個別銘柄では、HSBCホールディングス(8.29%)、アリババグループ(7.61%)、テンセント(7.59%)が構成比率でトップ3を占めます。上位10銘柄が指数全体の価値の53.38%を表しており、やはり一部の大手金融機関とハイテク企業への集中を反映しています。
香港ハンセン指数の構成銘柄の半数以上が中国本土に所在しています。また、上位10銘柄のうち、7銘柄が中国企業です。
そのため、香港ハンセン指数は太平洋を隔てた中国の経済データや人民元(中国企業の本質的価値を表す通貨)の動向、政治情勢の変化への反応に比べて、香港内のニュースにはそれほど敏感に反応しない傾向があります。
出所:hsi.com.hk、DaiyFX 2021年1月時点
香港ハンセン指数とストックコネクトの関係性
上海・香港ストックコネクトと深圳・香港ストックコネクトは、香港証券取引所と中国本土の取引所間におけるクロスボーダー取引のチャネルです。この制度は2014年11月に開始され、中国本土の投資家が香港市場に上場している適格株式を購入できるようになりました。また、外国人投資家が本土の上海A株市場で取引を行うためのチャネルも設けられています。2020年末時点で、香港取引所の1日の総出来高における8~10%近くがストックコネクトの下での取引です。また、香港ハンセン指数のすべての構成銘柄はストックコネクトの適格株式です。
ストックコネクトでの日々の売買代金を確認することは、本土の投資家のリスク選好度を知る手掛かりになるでしょう。買いが売りを大きく上回れば、リスク選好度が高まっている兆しの可能性があり、資本が流入して香港ハンセン指数は上昇するかもしれません。同様に、ストックコネクトでの大きな売りは、多額の資本流出が香港ハンセン指数を軟化させる傾向があります。
出所:hkex
香港ハンセン指数の取引方法
ここで、香港ハンセン指数の取引方法を紹介します。
先物取引
先物取引とは、未来の特定の日に特定の価格で売買する契約を交わす取引方法のことです。買い手は将来のある時点で指定された価格で指数を購入する義務が生じ、売り手はそれを提供する義務が生じます。先物取引は、価格変動のリスクをヘッジしたり、価格予測に基づいて利益を得たりすることが可能です。ただし、この取引には一定の契約単位が存在するため、大きな資金が必要となる場合もあります。そのため、十分な知識と経験やリスク管理が求められます。
CFD(差金決済取引)
CFDとは、実際に商品や証券を所有するのではなく、取引開始時と終了時の価格差を利益または損失とする取引方法のことです。香港ハンセン指数のCFD取引は、レバレッジを利用して大きな金額を取引できるため、小さな投資で大きなリターンを得る可能性があります。ただし、同時に大きなリスクも伴うため、適切な投資戦略が欠かせません。
ETF(上場投資信託)
ETFとは、特定の指数に連動するように設定された投資信託のことです。香港ハンセン指数などの指数を追跡し、一般的な株式と同様に証券取引所で売買されます。ETFは、少額から投資できるため初心者にも適しています。ただし、ETFの価格は市場の需給バランスにより変動し、基準価額と乖離することがあります。また、買い付けの際の手数料や、信託報酬などのコストを考慮しなければなりません。
個別銘柄を取引する
香港ハンセン指数の構成銘柄を個別で取引することも選択肢の1つです。HSBCホールディングスやアリババ、テンセントなどの大企業に投資できることが魅力と言えます。ただし、それぞれの企業の業績や市場動向に直結するため、企業動向の調査や市場のトレンド分析が重要です。
香港ハンセン指数の取引時間
香港ハンセン指数(HSI)先物は、香港証券取引所(HKEX)で月曜日から金曜日の香港時間午前9時15分から正午まで(前場)と、午後1時から午後4時30分まで(後場)取引可能です。時間外取引ができる時間帯は、香港時間午後5時15分から翌日午前3時までとなっています。
なお、台風や暴風雨などの異常気象警報が出た場合、その日の取引は遅延や中止されることがあります。その場合、悪天候による取引への影響に関するニュースやメッセージが香港証券取引所の市場システムを通じて配信されます。
出所:hkex
香港ハンセン指数の変動要因
香港ハンセン指数はアジアの代表的株価ベンチマークとして、ウォール街株価指数(NYダウ平均)の夜間取引と、アジア太平洋地域の取引時間中に発生した出来事の両方に反応しやすい傾向があります。香港と上海、香港と深圳の株式市場の結びつきが、この指数の日々のパフォーマンスに与える影響を大きくしている要因の1つと言えます。香港ハンセン指数の構成銘柄の一部は中国本土でも重複上場しているため、上海総合指数に連動して動く特徴がみられます。ここでは、香港ハンセン指数を取引する際の変動要因を紹介します。
米中関係、政治情勢
世界二大経済大国を取り巻く政治情勢は、香港ハンセン指数に大きな影響を与えることがあります。2018年には、米政府トランプ政権が中国政府との貿易戦争に火をつけました。米中関係の悪化と、世界経済の亀裂による影響の懸念が渦巻く最中、香港ハンセン指数は6月から10月の間に22%も下落しました。
それ以来、アリババ、テンセント、シャオミなど香港ハンセン指数の上位構成銘柄の多くは、米中政府間の紛争が技術分野にまで拡大したため、米国規制当局からの監視強化に直面しています。2021年1月初旬には、ニューヨーク証券取引所が大統領令13959により、中国系通信事業者3社のチャイナモバイル(中国移動通信)、チャイナテレコム(中国電信)、チャイナユニコム(中国聯合通信)を中国軍との疑わしい関係を理由に上場廃止し、3社の株価は香港市場で急落しました。
そのため、トレーダーは米中関係と米国の外交政策の最新動向を注視し、香港ハンセン指数への潜在的な影響を予測しなければなりません。つまり、米中関係の悪化は資本流出を促し、指数を押し下げる圧力となる傾向があります。一方、米中関係の改善は指数の価格にプラスの要因として作用する可能性があります。
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香港ドルの強弱(米ドル/香港ドル相場)
香港ドル(HKD)の強弱は資本の流れの参考にされることが多く、取引指標として機能することがあります。米ドルにペッグする香港ドルは、2005年5月以来、7.75~7.85の狭い取引レンジで固定されています。米ドル/香港ドルが7.85以上で取引される場合、香港金融管理局(HKMA)が市場で米ドルを売って香港ドルを買い、為替レートを目標レンジに戻します。また、米ドル/香港ドルが7.75以下で取引されるようになると、HKMAは香港ドルを売って米ドルを買うことで同じような為替レートの動きがみられます。
米ドル/香港ドルが上限の7.85に近い水準で取引されている場合、香港ドルに対する強い売り圧力が反映され、資本流出のシグナルとみなされることがあります。その場合、香港株式市場の収益率は悪くなるかもしれません。例として、米ドル/香港ドルは2018年から2019年にかけて、大半は上限の水準7.85付近で取引されました(以下のチャートを参照)。この期間に香港ハンセン指数は大幅に下落し、資本は香港株式市場から流出しました。その反面、2013年から2015年のように米ドル/香港ドルが下限の7.75付近で取引されている場合、香港ドルの需要拡大による強力な資本流入が香港ハンセン指数の上昇を支える可能性があります。
出所:Bloomberg、DailyFX
経済イベント
マクロ経済データは、基礎となる経済の健全性を評価する重要なバロメーターです。注目すべき重要な統計には、中国のGDP成長率、貿易収支、製造業PMI、鉱工業生産、小売売上高、インフレ率などがあります。香港地域のデータは、香港ハンセン指数にはあまり影響を与えません。
DailyFXの経済指標カレンダーでは、今後や過去の経済イベントに関するタイムリーで詳細な情報が得られます。
香港ハンセン指数の取引に役立つヒント
香港ハンセン指数を取引する前に、明確な計画を立て、必要な下調べをしておくことが大切です。成功するトレーダーは、指数の基礎となっている構成要素の力学や基本的な指標を研究し、価格チャートにテクニカル分析を用いて、取引開始と決済の水準を特定します。長期的な収益を上げるためには、リスク管理も極めて重要です。リスクを軽減するため、逆指値注文を設定することも多くのトレーダーが利用しています。
数ある戦略の中から、リスク選好度、時間枠、心理、その他の要素を考慮し、最適なものを選びましょう。ここでは、香港ハンセン指数の取引によく使われるテクニカル分析ツールを紹介します。
トレンドの見極め:上昇トレンド、下降トレンド、トレンドなし
香港ハンセン指数を取引する際には、どの方向にトレンドが発生しているか、またはトレンドは発生していないのかを見極めることが重要です。トレンドを見つけたら、狭いレンジ相場のスイングを狙うより、トレンド相場に乗る取引がおすすめです。なぜなら、1回の取引のリスクに対して見込めるリターンがより魅力的になるからです。トレンドを見極めるためのツールには、単純移動平均線(SMA)やボリンジャーバンド(以下のチャート参照)などがあります。
単純移動平均線(SMA)、ボリンジャーバンド
単純移動平均線(SMA)は、例えば20日や50日など、選択された取引期間の終値の平均を計算します。上昇トレンドではSMAは上向きに傾斜し、短期SMA(20日線など)が長期SMA(50日線など)を上回って上昇する傾向があります。下降トレンドの場合はその逆になります。
上昇トレンドでは、香港ハンセン指数はボリンジャーバンドの上半分で取引されるでしょう。ボリンジャーバンドの中央線は移動平均ですが、ここを下回るのは下降トレンドへ反転する可能性を示すシグナルです。
出所:IG証券
フィボナッチエクステンション:より高い高値、より低い安値を予測する
フィボナッチエクステンションは洗練されたテクニカル分析手法であり、上昇トレンドではより高い高値、下降トレンドであればより低い安値の予測に利用できます。フィボナッチエクステンションの重要な水準は、61.8%、100%、161.8%、200%で、利益確定水準の決定に使えるでしょう。
例えば、以下の香港ハンセン指数日足のチャートには、上昇するフィボナッチエクステンションが描かれています。当面のレジスタンスの水準は29,038(フィボナッチエクステンション100%)、次に29,877(127.2%)、その次は30,944(161.8%)です。これらの重要なレジスタンスラインを上抜ける試みが失敗した場合には、レンジ相場となるか、あるいは次の下値のサポートラインまで深く下落する可能性があります。
出所:IG証券
香港ハンセン指数の取引は米中関係や香港ドルの動向に注目しよう
香港ハンセン指数は、アジア市場への投資を検討している方にとっては魅力的な投資対象です。また、中国・香港企業への分散投資にも適しているでしょう。ただし、香港ハンセン指数は、香港におけるイベントより中国の経済・政治状況に影響を受けやすい特徴があるということに注意が必要です。
香港ハンセン指数を取引する際には、単純移動平均線やボリンジャーバンドなどを利用し、トレンドを見極めましょう。そして、自身に適した投資戦略を選択するとともに、適切なリスク管理を行うことも大切です。
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