投資のリスクを小さくする方法のひとつに分散投資がありますが、株式投資の場合は株価の変動が激しい局面で特にその効果を発揮します。投資においてはポートフォリオの重要性が必ず言われますが、なぜ重要なのか、その基本的な考え方を理解した上でポートフォリオを構築すれば、効果的にリスクが分散でき、大きな損失が生じるのを免れます。本記事では主に株式投資のポートフォリオに関して、以下の内容について解説します。
- ポートフォリオが重要な理由
- ポートフォリオの分散効果に影響を与えるリスク
- ポートフォリオを効果的に分散させる方法
- 大きな損失を免れたポートフォリオの例
- よくある過ち
- 効率的なポートフォリオ構築のポイント
- よくある質問(ポートフォリオに適した銘柄数)
ポートフォリオとは?
もともとポートフォリオとは、絵や地図など大判の書類を挟む薄いケースや書類かばんのことです。書類をまとめて持ち運ぶためのものを指すこの言葉が金融の世界で使われる場合には、異なる金融商品をひとまとめにしたものを指し、その複数の金融商品の組み合わせがポートフォリオです。
資産形成を目的にした投資では、株だけではなく金(ゴールド)や不動産といった異なる資産を組み込んで総資産ポートフォリオと呼んだりしますが、株式ポートフォリオと言った場合は、一般に株式銘柄の組み合わせのことです(株式投資信託も含みます)。異なる資産の投資配分は、「アセットアロケーション」といいます。
投資を始める場合、まず自分の投資資金に合ったアセットアロケーションを考え、それからポートフォリオを組むことが基本とされています。この記事ではタイトルにあるようにアセット(資産)を株に絞った株式ポートフォリオの解説がメインになりますが、一般にポートフォリオには資産クラスの異なる金融商品を組み入れて、リスクを抑えながら最大限のリターンを狙います。
なぜ複数の金融商品を組み合わせるのでしょうか?
冒頭に述べたように、分散投資は投資のリスクを小さくすることができる方法です。この分散は投資先を分散します。つまり、投資対象を一つに集中させるのではなく、いろいろな投資対象を保有して資金を運用するのです。
「卵は一つのカゴに盛るな(Don’t put all eggs in one basket.)」という格言を聞いたことがあるかも知れません。壊れやすい卵を一つのカゴに盛ってしまうと、カゴを落としたりすればその中の大部分の卵が割れてしまう可能性が高くなります。一方、卵を複数のカゴに分けて盛れば、カゴの一つを落としてその中の卵が割れてしまったとしても残りのカゴに入った卵は影響を受けずに済みます。
この格言のように、投資においては単一の資産へ投資するより複数の資産の適切な組み合わせに投資した方が同じリターンを得るのにリスクが小さいとされています。これをポートフォリオの分散効果と言います。
株式投資の場合、一般にセクターや地域、種類、値動きの特徴などが違う銘柄でポートフォリオを構成することで、リスクを軽減できます。この詳細は後ほど解説します。
分散投資の主な方法
次に、分散投資の方法を整理してご紹介します。分散投資は、リスクを減らして安定したリターンを得ることが目的です。この記事で主に解説している「資産(銘柄)の分散」の他にも、着目して分散すればリスクを軽減してリターンを平準化できるポイントがあります。
資産(銘柄)の分散:投資対象となる資産価格が全て同じように動くわけではありません。例えば、通常、株と債券は反対の値動きをすることが多いと言われています。株価が上昇しやすい時には債券価格が下がりやすいといったことです。こうした別々の資産や銘柄間の値動きの違いに着目して、リスクを抑えます。ある銘柄が値下がりしても、他の銘柄の値上がりでカバーするということです。
地域の分散:資産に様々なものがあるのと同様に、投資対象が存在する地域も日本に限らず様々です。資産や銘柄の価格は属している国や地域の状況、為替変動などでそれぞれに動きますので、異なる地域に拠点を持つ企業に投資することで地域特有のリスクを分散できます。異なる状況にある地域の株の組み合わせ例として、日本株と外国株、先進国株と新興国株などが考えられます。
時間の分散:投資タイミングに着目します。投資対象となる資産や銘柄の購入を一度にするのではなく複数回に分けることで、一時的な価格変動のリスクを分散させます。ある程度、長期にわたって行えば平均購入価額を引き下げる効果があるとされる「ドル・コスト平均法」がこの例です。資産や銘柄の購入時だけではなく、売却時も複数回に分けられます。売値・買値が平準化されれば、高値掴み・安値売りを避けることができます。
ポートフォリオが重要な理由とは?
株式投資では、特定の産業や地域に過度に依存するリスクを抑えるポートフォリオ作りが重要です。「すべての卵を一つのバスケットに入れる」状況は防ぎましょう。負の相関関係がある別の銘柄を一緒に保有すれば、分散の効果はさらに高まります。気をつけなければならない点はありますが、市場のボラティリティ(価格変動)の影響を緩和するポートフォリオになります。
ポートフォリオの分散効果に影響を与えるリスク
投資対象を分散することの重要性はここまででおわかりいただけたと思いますが、分散しても避けられないリスクがあることに注意しましょう。ここではリスク自体に焦点を当て、システマティック・リスクとアンシステマティック・リスクについて解説します。
システマティック・リスク
システマティック・リスクとは、分散投資を行っていても回避できないリスクのことです。戦争や景気悪化など、市場全体に影響をもたらすような変動によるリスクが挙げられます。こういったことによるリスクは、個々の企業がコントロールできるものではありません。つまり、ポートフォリオも絶対ではないということです。市場関連リスクとも呼ばれます。
アンシステマティック・リスク
アンシステマティック・リスクとは特定の企業や銘柄に関連するリスクのことで、分散投資によって小さくできるリスクです。これは各企業がコントロールできるものだからです。アンシステマティック・リスクの例としては、ビジネス・リスク(企業の不祥事など内部のオペレーション要因や外部の法的要因など)、財務リスク(資本構造など)、競合他社の動向が挙げられます。
ポートフォリオで軽減させようとするリスクは、アンシステマティック・リスクです。ただし、ポートフォリオをいくら分散させてもシステマティック・リスクと市場全体のリスクには依然さらされていることに注意しておきましょう。
株式ポートフォリオを効果的に分散させる5つのポイント
1. セクター別
株のセクターとは企業の産業を分類したグループのことですが、それぞれのセクターには特徴があります。異なるセクターの銘柄をポートフォリオに組み入れれば、効果的にリスクを分散できます。複数の銘柄に分散しているつもりでも、それが1つのセクターだけに集中していればセクター全体の相場が下がるような局面では大きな損失となってしまいます。
産業によっては互いの値動きに相関関係があるように見えて、実は因果関係のない疑似相関を持つ場合もあります。そのため、各セクターをよく調べ、ポートフォリオ全体の目標に対して、それぞれのセクターが適当かどうかを慎重に評価しましょう。
2. 資本規模別
異なる規模の企業(小型株、中型株、大型株)をポートフォリオに組み入れるのも、よく使われる手法です。一般的には大型株のほうが中・小型株より安全な投資対象と考えられていますが、中・小型株には成長のチャンスが大きいという魅力があります。
景気後退時には通常、投資家はリスクを回避しようと安定した大型株を好むために大型株が小型株をアウトパフォームしますが、経済が回復するにつれて投資家のリスク選好度が高まり、小型株が買われて大型株をアウトパフォームする傾向が高まります。このように市場環境によって違った値動きとなる可能性が高いため、ポートフォリオの分散に効果的と言えるでしょう。
3. 地域別
分散の種類のところでも述べましたが、国内外の異なる地域に拠点を持つ複数の銘柄に投資すれば、地域特有のリスクを分散できます。特定の国や地域の金融・政治などから影響を受けやすい銘柄がありますので、着目しましょう。グローバル化に伴い、日本にいながら他の地域や国の株式にも投資が可能になっています。最近では上場投資信託(ETF)の登場で、さらに地域別の分散投資が身近になりました。
4. 株の種類別(株式ETFなど)
ここ数年、投資家の間で株式ETFの人気が一段と高まっています。ETFは1銘柄で複数の銘柄に投資できます。つまり、株を個別に複数購入しなくても手軽に分散投資ができるということです。例えば、iシェアーズ・コアS&P500ETF(IVV)はS&P500(米国500種株式指数)に連動するETFです。IVVを1口購入するだけで、米国を代表する株式500銘柄へ分散投資をしていることになります。
また株の種類別では、リスク回避をより重視する場合、市場が混乱した時のダウンサイドプロテクション(下方リスク抑制)として安定性の高い銘柄を増やすことを検討しましょう。ディフェンシブ銘柄や安全資産株と呼ばれる株がこれに当てはまり、経済の見通しが不透明な時にも株価の維持や上昇が期待できる守りに強い銘柄のことです。
反対に、リスク選好度が高ければ安定性の高い株よりグロース株(成長株)を増やし、高いリスクを受け入れることで高い期待リターンを得ることもできます。
注意したいのは、市場全体が落ち込むような状況下では、いくら安定性の高い銘柄であっても下落する可能性が高いことです。
5. 資産クラス別
分散投資の対象は株だけに限りません。他の資産クラスもポートフォリオに組み入れることを検討してみましょう。一般的に、投資家は安定性の高い投資対象というと債券に目を向けがちですが、債券に限らずコモディティや通貨にも安定性が高いとみなされている金融商品があります。例えば、金(ゴールド)、日本円、スイスフランなどは安全資産とされています。
詳しくは次の記事をご覧ください:株式と債券の違い
大きな損失を免れたポートフォリオの例
以下に、新型コロナウイルスの影響で株価が暴落した時の例を挙げます。これは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が世界中の市場を冷え込ませた時でも大きな損失を免れた実際の状況です。
デルタ航空とギリアド・サイエンシズ:
TradingViewでチャート作成
上のチャートは、コロナ禍前後のデルタ航空とギリアド・サイエンシズの株価の動きを重ねて表示したものです。新型コロナウイルスの流行は世界中に広がり、航空会社の株は世界的に暴落しました。航空会社で株価が急落したのはデルタ航空だけではありませんが、かなりの打撃を受けた様子が鮮明に示されています。
一方、ギリアド・サイエンシズは新型コロナウイルスの治療薬の研究開発をおこなう製薬会社です。この2つの米国株は、世界保健機関(WHO)がパンデミックを宣言する前までは、だいたい正の相関関係を示していました。ですが、このチャートで明らかなように宣言後は互いに逆方向に大きく動き、負の相関を示しています。これは極端な例ですが、ポートフォリオがこの2銘柄で構成されていた場合には、大きな損失を免れることができたことがわかるでしょう。
この例は、複数の異なるセクターの銘柄に投資していれば、経済や社会情勢が激しく変動する局面においてもリスクを調整してリターンを生み出すことができると明示しています。ここでもポートフォリオの重要性がよくおわかりいただけたと思います。
分散投資によくある過ち
(1)過度な分散
ポートフォリオに組み入れる銘柄数が多すぎるのは、百害あって一利なしと言えます。ある研究によれば、組み入れ銘柄数が30を超えると実際のリスクは減らなくなることがわかっています(下図参照)。それどころか、過度な分散は銘柄の値動きを互いに打ち消してしまい、かえって逆効果になることも考えられます。
無闇に銘柄を増やすのではなく、ポートフォリオ全体のバランスや銘柄の関係性を考慮することが大切です。ポートフォリオの銘柄数が多くなればなるほど、その分、管理が複雑で手間も増してしまいます。また、管理がおろそかになれば、本来なら避けられた下落で損失を被ってしまう可能性も増すでしょう。
出所:E.J エルトン教授とM.J グルーバー教授(ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネス)による研究結果
(2)負の相関関係がある銘柄の組み入れ
前述の2銘柄の例は負の相関関係を用いていますが、このように一緒のタイミングで上昇・下落することがない銘柄を意図的にポートフォリオに組み入れる投資家は多くいます。ただし、その場合、ポートフォリオに含まれる一部の銘柄の価値が上がり利益が出ていても、ポートフォリオ内の別の銘柄が真逆の動きをすることで利益が打ち消されてしまう恐れがあります。以下の例は、負の相関関係がある2銘柄(株式Aと株式B)で構成されたポートフォリオの価値の状況です。両銘柄がどのように互いの利益を打ち消し、ポートフォリオの価値を停滞させているかを誇張して示しています。
完全な負(-1)の相関がある2銘柄で構成されたポートフォリオの例:
(3)投資時期
特定の銘柄に偏らないことで安定した収益を目指せるポートフォリオ運用ですが、理論的には簡単なように思えても投資の時期を誤って損失をカバーしきれない場合があります。極端な弱気相場で株式市場全体が下落するような局面では、たとえ十分に銘柄を分散したポートフォリオでも、基本的には下落を回避することはできません。
こうした状況で損失が膨らむのを防ぐためには、他の資産クラスも組み入れておくことが有効です。また、国内の株式市場が悪いときでも海外の市場は好調という場合もありますので、国内株だけでなく外国株も銘柄選びの際に検討しましょう。
効率的なポートフォリオ構築のポイント
どのような投資でも始める前には自分が投資に回せる金額、投資目標、投資(運用)期間、どこまでのリスクならとれるのかを明確にしておく必要があります。これらを踏まえた上でポートフォリオを組みましょう。リスクを最小限にして最大限のリターンが得られる効率的なポートフォリオにするため、以下の点を念頭に置いて銘柄を選びましょう。
- リスク許容度・リスク選好度(どこまでの価格変動に耐えられるか・損失をどこまで受け入れる意欲があるか)
- 銘柄の相関関係(それぞれの相関関係を把握する)
- 銘柄数(投資対象の数を増やし過ぎない)
- システマティック・リスク(リスクを完全になくすことはできない)
また、ポートフォリオは一度作ったらそれで終わりというものではありません。状況に応じて見直しを行うことも重要です。もともとポートフォリオとは中の書類の入れ替えができるケースのことです。投資においても、ポートフォリオはより効果的な銘柄に入れ替えることが可能なのです。
状況によっては、アセットアロケーションの見直し、つまり、債券やコモディティ(商品)など他の資産クラスへ資金を振り替えることも検討しましょう。株価は個別の企業の業績だけではなく、政治、景気や金利の動向などの経済的要因、投資家の動向など様々な要因で常に変動しています。故に、ポートフォリオの構成が当初のバランスから乖離してリスクが高くなってしまうこともあり得ます。投資期間の長さにもよりますが、少なくとも1年に1度は資産配分を再調整(リバランス)しましょう。
株式ポートフォリオについてよくある質問
ポートフォリオの銘柄数はどれくらいがいいですか?
さまざまな研究結果があるため、この質問に対する正確な答えはありません。株式調査の専門家やアナリストの見解では15~30銘柄というのが一般的ですが、この数には幅がありますし、不明確です。本記事で紹介したポイントを参考にしてポートフォリオを組み変えるうちに、効率的なポートフォリオ構築のコツがつかめてくるでしょう。
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