マーケットの混乱時、多くのトレーダーがその嵐を乗り切るためにセーフヘイブン(安全な避難先)であるディフェンシブ銘柄に注目します。それほどディフェンシブ銘柄は、ポートフォリオの分散化とリスク軽減を可能にできる銘柄として重要視されているのです。
本記事では、ディフェンシブ銘柄の概要と活用方法について詳しく説明します。
ディフェンシブ銘柄について解説
世界の株式マーケットが大きく下落したり、急騰や急落を繰り返すような不安定な展開が続いたりした際などに、トレーダーから注目されやすいのがディフェンシブ銘柄です。
ディフェンシブ銘柄は、その名の通り防御的な意味合いを持っています。
この項目ではディフェンシブ銘柄に投資するための基本的な知識として、ディフェンシブ銘柄とは何か、ディフェンシブ銘柄と景気循環株の違いなどについて解説していきます。
ディフェンシブ銘柄(非景気循環株)とは?
ディフェンシブ銘柄(非景気循環株、ディフェンシブ・ストック)とは、マーケットが混乱しているときでも株価の維持や上昇が期待できる銘柄、つまり景気に左右されにくい銘柄の総称です。
景気が悪化して経済の見通しが不透明なときでも、ディフェンシブ銘柄を保有していればリスクを低く抑えることができ、安定したリターンを期待できます。
そのため、金融危機や経済不況などの影響でマーケットが低迷したとき、リスク回避の目的などで投資家から注目される傾向にあります。したがって通常では、景気後退期にディフェンシブ銘柄のパフォーマンスはマーケットの動きを上回り、景気拡大期にはマーケットの動きを下回る傾向にあるのです。
ディフェンシブ銘柄と景気循環株との違い
ディフェンシブ銘柄と違って、景気の動向に株価が左右されやすい銘柄は「景気循環株」と呼ばれます。景気循環株は、マーケットが低迷し景気後退に陥ると株価は下落する傾向に、逆に経済が好調なときは株価が上昇する傾向があります。
景気循環株には製造業や素材に関連する銘柄が多く、BMWやダウ・ケミカルといった自動車会社や化学メーカーが例として挙げられます。
製造業や素材産業では、景気が良いと製品がたくさん売れるため、景気動向と株価に相関が見られるのです。
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安全資産とディフェンシブ銘柄の共通点
安全資産とは、預金や国債、元本保証付きの保険商品などのように、景気変動による元本割れのリスクが小さい資産のことです。元本が目減りするリスクが低いという点では、安全資産とディフェンシブ銘柄には共通点があるといえます。
したがって景気が悪化すると、投資家はポートフォリオの中でディフェンシブ銘柄や安全資産の割合を大きくする傾向にあります。
ディフェンシブ銘柄を保有するメリットとデメリット
ディフェンシブ銘柄を保有するメリットとデメリットについて、それぞれ解説していきます。
ディフェンシブ銘柄を保有するメリット
ディフェンシブ銘柄を保有するメリットとして、以下の2点が挙げられます。
- 価格が安定しやすい
- 配当利回りが高い銘柄が多い
ディフェンシブ銘柄は、景気に影響を与えるようなニュースに株価が反応しにくい傾向があります。つまり、ディフェンシブ銘柄の株価は下落幅が限定的であり、価格が安定しやすいのです。
一方、景気循環株の株価はニュースに対して敏感に反応するため、ボラティリティ(価格の変動幅)が高い傾向にあります。加えて、配当利回りの高い銘柄が多い点も、ディフェンシブ銘柄を保有する大きな魅力の1つです。
ディフェンシブ銘柄の多くは、すでに組織として成熟した大企業や安定した利益を上げ続けている企業が占めます。一般的に企業は成熟期に入ると利益が伸びにくくなることから、株主を引き止めておくためにも配当金を増やす傾向があり、高い配当利回りにつながりやすいのです。
ディフェンシブ銘柄は価格が安定しやすく、配当利回りが高いといった特徴があると覚えておきましょう。
ディフェンシブ銘柄を保有するデメリット
ディフェンシブ銘柄への投資にはメリットだけでなく、以下のようなデメリットもあります。
- キャピタルゲインを得ることが難しい
- 株価の暴落もありうる
まず、ディフェンシブ銘柄はキャピタルゲインを得ることが難しい傾向があります。キャピタルゲインとは、保有している資産を売却することによって得られる売買差益のことです。ディフェンシブ銘柄は株価の変動が小さいため、得られるキャピタルゲインも少なくなってしまうのです。
また、ディフェンシブ銘柄であっても株価が暴落してしまうこともあります。例えば、東日本大震災が起きた際には東京電力が3日連続でストップ安となり、結果として暴落してしまいました。ディフェンシブ銘柄のリスクがいくら低いといっても、必ずしも大きな下落が起こらないという保証はないのです。
代表的なディフェンシブ銘柄
ディフェンシブ銘柄は、大きく以下の3カテゴリーに分類できます。
- 公益事業
- 生活必需品
- ヘルスケア
水道や石油、電力などの公益事業は、景気動向にかかわらず消費者にとって必要不可欠な物であるため、景気低迷時であっても収益が安定しています。また、食品・飲料などの生活必需品やヘルスケア用品も経済状況にかかわらず購入されるため、ディフェンシブ銘柄とみなされるのです。
それぞれのカテゴリーについて詳しく見ていきましょう。
公益事業株
公益事業株(公益株)とは、電気やガス、水道など日常生活に必要不可欠なインフラを提供する企業の株式です。
日本で水道事業を提供しているのは公営の自治体がほとんどで、株式のイメージがないかもしれません。しかし、世界では水道を公営から民営に切り替えている国も多く、水道会社の株式も投資の対象となっています。米国株でいえば、「ヨーク・ウォーター」が水道事業会社の例として挙げられます。
公益事業株に分類される代表的なディフェンシブ銘柄は、以下の通りです。
- ネクステラ・エナジー
- サザン・カンパニー
- ヨーク・ウォーター
- ニュージャージー・リソーシーズ
- キャボット・オイル・アンド・ガス
生活必需品株
生活必需品株とは、衛生、食品・飲料などの日々の生活に欠かせないものを取り扱う企業の株式です。
米国株の中では、世界最大の一般消費財メーカーである「プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)」が有名であり、圧倒的なブランド力を持っています。
他にも、著名投資家のウォーレン・バフェット氏が長期保有している「コカ・コーラ」や会員制の倉庫型ショップで「コストコ・ホールセール」など日本でもよく知られている企業も多くあります。
- プロクター・アンド・ギャンブル
- コルゲート・パルモリーブ
- コカ・コーラ
- ウォルマート
- フィリップ・モリス・インターナショナル
- コストコ・ホールセール
ヘルスケア株
ヘルスケア株とは、医療を取り扱う企業の株式です。日本や米国の医療費は右肩上がりで上昇していることもあり、多くのヘルスケア関連企業では収益と株価が着実に成長しています。米国株の中では、医薬品大手の「ジョンソン・エンド・ジョンソン」など日本でも有名な企業があります。
その他には、バイオンテックと共同で新型コロナウィルスワクチンを開発したファイザーなども今後の成長が期待できるヘルスケア株として有名です。
- ジョンソン・エンド・ジョンソン
- ファイザー
- メルク・アンド・カンパニー
- ユナイテッド・ヘルス・グループ
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ディフェンシブ銘柄をトレードする際のポイント
ディフェンシブ銘柄は、経済低迷時を乗り切るための投資先として用いられます。しかし、たとえディフェンシブ銘柄が不景気に強いといえど、どの銘柄に投資をしてもプラスのリターンを得られるわけではありません。
ディフェンシブ銘柄を選ぶ際は、以下4つのポイントを精査して、ポートフォリオのリスク許容度に最も適した銘柄を見つけ出してください。
- ベータ値
- 配当
- PER
- 大手優良企業かどうか
ベータ値
ベータ値とは、個別株式とマーケット全体における相関関係を指す指標です。
具体的には、ベータ値が1の場合、株価とマーケットが強く相関していることを示しています。つまり、ベータ値が1より大きい場合、その銘柄はマーケットよりも変動しやすいことを、ベータ値が低い(0に近い)場合はマーケット全体における値動きの影響を受けにくいことを示しているのです。
ベータ値が大きい銘柄はボラティリティが高い傾向にあるので、安定した収益を重視する場合は、ベータ値がなるべく低いディフェンシブ銘柄を選ぶと良いでしょう。
【関連記事】株式のボラティリティとは?ボラティリティを活用したトレード方法
配当
一般的に、配当利回りが高い(具体的には4%を超えている)銘柄は、ディフェンシブ銘柄として最適であると考えられています。
配当利回りが高い銘柄は、マーケットが不安定な時期であっても安定した収益を求める投資家により株が買われる傾向にあります。したがって、配当利回りが高い銘柄を選ぶことは、より多くのインカムゲインを狙えるだけでなく、不景気時にリスクの低減にもつながるのです。
【関連記事】配当株のおすすめ投資法|失敗しないインカムゲインの狙い方を解説
PER(株価収益率)
PER(株価収益率)とは、企業の1株当たりの利益に対する株価の比率(株価÷の1株当たりの利益)のこと。PERが低い銘柄は過去の動きに比べて株価が割安か、業績パフォーマンスが優れていると考えられます。
つまり、PERを見ることで株価が割安か割高かを判断することが可能。ディフェンシブ銘柄を選ぶ際は、PERが低いかどうかを確認するようにしましょう。ただしPERの水準は業種によって異なるので、同業他社同士の数値を比較することが見極めるコツです。
大手優良企業かどうか
もちろん例外はありますが、株式マーケットで人気または知名度があり、かつ収益が安定している大手優良企業もディフェンシブ銘柄として優れた候補になりえます。
大手企業は、そのブランド力から多くの投資家に信頼を置かれているので、たとえマーケット全体が下落基調であっても購入される傾向にあります。したがって、特に景気後退時においては中小型株よりも大手優良企業の銘柄を選ぶと良いでしょう。
注目すべきその他の安全資産とは?
景気後退局面において資産の安全性を確保するための投資先として有効なのは、ディフェンシブ銘柄だけではありません。ディフェンシブ銘柄よりもリスクが低い安全資産へ、資金を逃避させることも考えましょう。以下は安全資産の例です。
まとめ
株式の銘柄の分類方法はさまざまですが、ディフェンシブ銘柄と景気循環株は基本的かつ代表的な銘柄の分け方です。したがって、株式投資をする際には、それぞれの用語が何を意味し、どのように活用すべきなのかをマスターしておくと良いでしょう。
ディフェンシブ銘柄をポートフォリオに組み込むことで、景気下降局面でも資産の減少を抑えることが期待できます。ただし、ディフェンシブ銘柄であっても必ずしも大きな下落が起こらないというわけではありません。1つのディフェンシブ銘柄に集中投資するのではなく、複数の銘柄に分散投資するなどしてリスクを軽減させることをお勧めします。
また、ディフェンシブ銘柄を選ぶ際は、ベータ値や配当利回り、PERにも注目して事前に徹底したリサーチと分析を行うようにしましょう。
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