※2024年5月16日更新
株式市場で取引される銘柄は、産業やテーマ別のセクターと呼ばれるグループに分類することができます。世界中の株式市場には膨大な数の銘柄が上場しているので、こうして整理することで、セクター別や同じセクター内の複数の銘柄の業績や株価を比較して分析することが容易になります。また、取引の際の銘柄選びやポートフォリオの管理、投資戦略の構築などさまざまな場面で活用できます。
また、セクターによって株価のパフォーマンスが大きく異なることがあり、経済全体の状況に大きく左右されるセクターもあれば、景気後退局面でも優れたパフォーマンスを示すセクターもあります。しかし、各セクターの動きを含めて特徴を把握しておけば、精度の高い株式評価や分析ができるようになり、より的確な投資判断につながるはずです。
この記事では米国株のセクターを取り上げ、経済全体の中での各セクターの位置付けや特徴を解説しながら、取引を行ううえで知っておきたい情報についても触れていきます。また、株式市場が経済に与える影響も知れば、この記事で触れている内容についての理解がより深まるでしょう。
米国株のセクターは世界産業分類基準(GICS)に基づいて大きく11に分類されていますが、それぞれどのような特徴があるのでしょうか?各セクターの解説に入りましょう。
米国株のセクター分類1:資本財
資本財セクターには、建設、鉄道、航空、製造業などで使用される機械や設備などの資材の製造・販売と、その関連サービスを提供する企業が分類されます。
株式市場はさまざまな形で経済とつながっていますが、資本財銘柄は特に経済動向に敏感です。つまり、資本財セクターは経済全体と同じような動きを示すということであり、そのパフォーマンスは景気循環の各ステージと密接に関連していることから、資本財セクターの銘柄は「景気循環株」と呼ばれています。
経済が成長する局面においては総需要が増加します。それに対応するために工場は生産能力を高め、その結果、収益も増えます。その一方、景気後退時には企業や個人の消費が落ち込み、需要が減るので、その影響で資本財セクター企業の売り上げは落ち込み、収益も減少します。
以上のことから、資本財セクターの銘柄を含む景気循環株を取引する際には、特に経済の現況と方向性の見通しについて理解しておくことが必要です。そのため、経済全体のパフォーマンスを確認する指標として、株価指数を活用するトレーダーも多くいます。世界の主な株価指数については当社の主要株価指数のページでご覧いただけますが、代表的な指数として、S&P500(米国500種株価指数)、FTSE100(英国FTSE100種総合株価指数)、DAX40(ドイツ40種株価指数)、ASX200(オーストラリア200種株価指数)、ハンセン指数(香港HS50種株価指数)などが挙げられます。
資本財セクターの主要銘柄:
- ゼネラル・エレクトリック(GE.N)
- キャタピラー(CAT.N)
- ウーバー・テクノロジーズ(UBER.N)
- ユナイテッド航空ホールディングス(UAL.O)
米国株のセクター分類2:素材
素材とは、製造業などの企業が製品の原材料にする、原油、金、紙、石といった物を指します。素材で最も一般的なのは金属や鉄鉱石などの鉱業生産物で、それらの採掘や開発、加工に携わる企業がこのセクターに分類されます。
多くの企業が、最終製品の原材料の供給を素材セクター企業に依存しています。例えば、家具メーカーは木の伐採、集材、輸送を行う企業に依存しており、これらの木が最終的に素材として使える木材にされます。このセクターは、主に企業向けに製品やサービスを提供する事業(BtoBビジネス)なので、あまりなじみのない企業が多いと感じるかもしれません。
一般的に素材とは自然界に存在する物で、有限とされている物がほとんどです。再利用が可能な物もあるとはいえ、基本的には供給に限りがあります。そのため、材料不足などで素材セクター企業による供給不足が原材料の高騰を招き、製造業企業の業績を直撃することがあります。また、このようなインフレ懸念によって素材セクターの銘柄が買われ、株価が上昇することもあるので、素材セクターも景気に非常に敏感な景気循環型となります。
素材セクターの主要銘柄:
- デュポン(DD.N)
- BHPグループ(BHP.N)
- アルセロール・ミッタル(MT.AS)
- リオ・ティント(RIO.L)
米国株のセクター分類3:エネルギー
エネルギーセクターには、電力などのエネルギーの生産・供給に関連する企業が分類されます。これらの企業は、石油・天然ガスの掘削・生産やパイプライン整備、公共サービスである電力・ガス、鉱山開発、再生可能エネルギー、化学製品などエネルギーに関わる分野で事業を展開しています。
このセクターに含まれる企業は、次の2つのどちらのエネルギーに関わるかによっても分類できます。1つは太陽光や風力、地熱といった再生可能エネルギーで、もう1つは石油や石炭、天然ガスなど有限な資源、すなわち化石燃料による非再生可能なエネルギーです。近年は、社会的に再生可能エネルギーへの関心が高まっています。
エネルギーセクター銘柄の株価は、いくつか変動要因がある中でも特にエネルギーのもとになっている商品(コモディティ)価格の動きと連動する傾向があります。もとになっている商品の価格が変われば、それを仕入れて事業を行うエネルギーセクターの企業は当然、その影響を受けて業績が変わってくるので、この関係は理にかなっています。
下図を見れば、エクソンモービルの株がこれまで原油価格と密接に連動して推移してきたことが一目瞭然です。
この図からわかるように、エネルギーセクターの銘柄を取引する際には、もとになっている商品の価格にも注意しておく必要があります。
当社の商品(コモディティ)ページにアクセスして、世界中でよく取引されている商品とその市場を動かす要因について確認してみてください。
エネルギーセクターの主要銘柄:
- エクソンモービル(XOM.N)
- BP(BP_pb.L)
- ロイヤル・ダッチ・シェル(SHEL.AS)
- シェブロン(CVX.N)
米国株のセクター分類4:生活必需品
生活必需品セクターには、消費者にとって必要不可欠な製品を提供する企業が分類されます。幅広い食品・飲料メーカーや日用品メーカーが含まれ、パンや米など穀物のように主食となるものに加えて、アルコールやタバコまで範囲は及びます。
このセクターはさらに次の6つに分けられます。
- 食品
- 食品・日用品小売り
- 飲料
- 家庭用品
- 個人向け用品
- タバコ
生活必需品セクターの銘柄は「非景気循環株」や「ディフェンシブ株」と呼ばれ、安全資産株とみなされています。景気が良くても悪くても、人々は生活するための基本的な必需品は購入するからなのですが、そのような理由で、生活必需品を取り扱う企業は通常、安定した配当と業績を特徴とします。ただし、事業全体の低成長に悩まされる傾向があることは否めません。
また、生活必需品は差別化が難しいため、このセクターのほとんどの企業が似通った製品を販売しており、競争が激しいという側面もあります。したがって、これらの企業は製造コストを最小限に抑えながら最新技術を取り入れて革新的な製品づくりを常に追求していく必要があります。
とはいえ、生活必需品銘柄は非景気循環型であるため、景気後退期に景気循環株が下落した後に買われる傾向があります。
生活必需品セクターの主要銘柄:
- ペプシコ(PEP.O)
- フィリップ・モリス・インターナショナル(PM.N)
- クローガー(KR.N)
- プロクター・アンド・ギャンブル(PG.N)
米国株のセクター分類5:一般消費財
一般消費財セクターには、「生活必需品以外」とみなされる製品の販売やサービスを提供する企業が分類されます。このセクターには、アマゾンやナイキのように、所得の高い消費者にアピールする高品質な商品やサービスを提供する企業が含まれます。
このセクターの株は、景気が良いときには大きく成長し、アウトパフォームする傾向があります。経済状況が完全雇用に近くなると総需要が高まり、必需品を購入した後の余剰資金が増え、一般消費財セクター企業の製品の消費にまわるからです。
そのため、中産階級が急速に増加している国や、景気サイクルの回復期に入った国の一般消費財セクター銘柄を選好する投資家もいます。
一般消費財セクターの主要銘柄:
- メイシーズ(M.N)
- アマゾン(AMZN.O)
- ナイキ(NKE.N)
- フォード・モーター(F.N)
米国株のセクター分類6:ヘルスケア
ヘルスケアセクターには、医療サービスや医療保険を提供する企業、医療機器や医薬品を製造する企業が分類されます。
このセクターの企業は、技術や研究の進歩に基づいて救命治療や医薬品を提供しています。景気の状況がどうであれ、患者は必要な薬を求めるので、医薬品銘柄は非景気循環株とされています。
また、このセクターは人口動態にも少々影響を受けます。大集団であるベビーブーム世代を考えてみましょう。ベビーブーマーが仕事を引退して高齢者となって医療を必要とするとき、ヘルスケアセクターはどうなるでしょうか?このセクター企業の製品やサービスへの需要が高まり、その結果、収益が増加する可能性があることは想像がつくでしょう。
ただし、注意が必要な点もあります。新薬の上市を目指す製薬会社は多額の資金を投じて新薬開発を行いますが、規制当局から承認が得られなければ、その全てが無駄になる可能性があります。そうなった場合、株式市場の楽観的な期待はパニックに変わり、製薬会社の株価は暴落の可能性さえあります。その逆に、承認が得られれば、新薬からの収益を期待する投資家の買いはさらに増え、株価は上昇するでしょう。
ヘルスケアセクターの主要銘柄:
- ファイザー(PFE.N)
- ノバルティス(NOVN.VX)
- ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ.N)
- インディビア(INDV.L)
米国株のセクター分類7:金融
金融セクターには、個人と企業に金融サービスを提供する企業が分類されます。銀行、投資会社、保険会社などがここに含まれますが、近年、フィンテックの発展によって新規参入企業が増え、このセクターは広がりをみせています。
金融セクターは経済全体の中で重要な役割を担い、このセクターの健全性は経済全体の強さを表します。なぜかといえば、新たな住宅購入のための住宅ローンであれ、事業拡大のための商業ローンであれ、個人や企業は資金調達を銀行からの借り入れに頼るからです。借り入れた資金によって消費が増加すれば経済は活気づき、経済の健全性を示す消費者信頼感も高まります。また、個人消費者は自身の資産を損失から守ろうと保険会社を頼って利用するでしょう。
金融セクター銘柄の株価は、経済の回復期に好調なパフォーマンスを見せ始め、好景気のピークにはさらに上昇傾向が見られます。
ただし、景気後退が長引く場合、金融セクターは最も大きな打撃を受けるセクターの1つです。借入れと消費を促すために中央銀行が利下げを行うと、市中銀行の貸出金利も押し下げられて収益が減少し、ひいては投資家への配当金が減る(または無配になる)ことにもなりかねません。
また、投資会社にとっては、顧客が投資した資産に損失が生じた場合には資金流出や早期償還が起こって、その収益に影響が及ぶ可能性があります。
金融セクターの主要銘柄:
- ゴールドマン・サックス(GS.N)
- シティバンク(C.N)
- アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG.N)
- バークシャー・ハサウェイ(BRKa.N、BRKb.N)
米国株のセクター分類8:情報技術
情報技術セクターには、IT・ハイテク関連の製品・サービスを研究、開発、販売する企業が分類されます。
ハイテク株とも呼ばれるこのセクターの銘柄は、その成長率の高さから高く評価され、割高な価格で取引される傾向があります。また、経営陣は分配を行わず、余剰資金を再投資に回す傾向も見られます。
情報技術セクターの銘柄で構成される株価指数:
- 米国テク株100(ナスダック100種株価指数) - IT技術関連銘柄が指数全体の約50%を占める
- 米国FANG(FANG+指数) - 米国のIT企業大手4社、旧フェイスブック(旧Facebook、現Meta)、アマゾン(Amazon)、アップル(Apple)、ネットフリックス(Netflix)、アルファベット(Alphabet)を表し、指数名は各社の頭文字から付けられています。アルファベット社はグーグル(Google)の持ち株会社です
インターネットのますますの普及や電子商取引(e-コマース)の活況、データ保護法の範囲拡大に伴い、情報技術セクターの企業は収集した人々の情報の分析や使用、拡散などの方法について当局の監視対象となっており、このことは昨今、このセクターが直面している大きな課題となっています。
このセクターは、さらに4つのサブセクションに分けられます。
- 半導体
- ソフトウェア
- ネットワーク、インターネット
- ハードウェア
情報技術セクターの主要銘柄:
- エヌビディア(NVDA.O)
- セールスフォース(CRM.N)
- マイクロソフト(MSFT.O)
- アップル(AAPL.O)
米国株のセクター分類9:コミュニケーションサービス
コミュニケーションサービスセクターには、文字、音声、画像などのデータを伝送する企業が分類されます。これらの企業はグローバルな通信ネットワークを実現し、世界中に提供しています。このサービスは技術の進歩によって、徐々に安価になっています。
携帯電話などのモバイルサービスについては、従来の固定回線のインフラに比べて目覚ましい進歩を遂げており、その通信は今や音声のみではなく、文字や画像、大量データの伝送へとシフトしています。
経済に不可欠な部分を担うこのセクターは、バリュー株(割安株)とグロース株(成長株)が選べるほどのレベルにまで成長してきました。グロース株を好む投資家はワイヤレスサービスを提供する中小企業に価値を見出し、魅力をより感じるかもしれません。一方、IT機器や関連サービスを扱う大企業は、安定した配当を重視する投資家に選ばれる傾向があります。
テレコミュニケーションサービスセクターの主要銘柄:
- ベライゾン(VZ.N)
- AT&T(T.N)
- T-モバイル(TMUS.O)
- ボーダフォン・グループ(VODI.DE)
米国株のセクター分類10:公益事業
公益事業セクターは、ガス、上下水道、電力など社会の基盤となる設備を提供する企業が分類されます。
公益事業を行う企業は社会に必要不可欠なサービスを提供しているため、厳しい規制の対象となることがよくあります。
例えば、これらの企業は、収益を上げるために料金を上げることでさえ禁止されています。その結果、このセクターの銘柄は通常、安定した配当を出し、株価の変動は少なくなっています。
こういった社会基盤設備には選択の余地がないため、不況期でもこれらの製品やサービスに対する需要は常にあると投資家は考えています。したがって、投資家は、景気が悪化して景気循環株の変動が大きくなると、自分の資本を保護するためにこのセクターの銘柄を選ぶことがよくあります。
公益事業セクターの主要銘柄:
- NRGエナジー(NRG.N)
- センターポイント・エナジー(CNP.N)
- ネクステラ・エナジー(NEE.N)
- デューク・エナジー(DUK.N)
米国株のセクター分類11:不動産
一般に不動産セクターは、不動産売買や不動産の保有から収益を得る企業が分類されます。このセクターはさらに、住宅用、商業用、産業用の3つのサブセクターに分けることが可能です。
住宅用不動産のサブセクターに分類される企業は、住居として使用される不動産を扱います。その形態には、戸建、アパート、コンドミニアム、計画的小集団開発の住宅などがあります。
商業用不動産サブセクターの企業は、ショッピングモール、小売店、ホテル、オフィススペースなど事業目的で使用される不動産を扱います。
産業用不動産の企業は、倉庫や工場など、製造や生産に使用される不動産を扱います。
不動産セクターに投資するには、主に次の4つの手段があります。
- 不動産(物件・土地)を物理的に購入する
- 不動産に直接投資する上場企業の株式を購入する
- 不動産投資信託(REIT)を購入する
- 不動産セクター銘柄の株価指数と連動する金融商品を購入する
不動産関連企業は本質的には景気循環型で、景気後退期には苦境に立たされる傾向があります。というのも、景気が落ち込むと人員削減や事業規模縮小などの懸念が高まり、大抵の人々は20~30年といった長期にわたる住宅ローンを組む覚悟をすることが難しくなるからです。
株式市場のセクターについてよくある質問
最もパフォーマンスが良いセクターは?
これについては多くの人が知りたいと思うでしょう。アウトパフォームする魔法のセクターを見つけたいと思うのは普通のことですが、実際には、各セクターには良い時期もあれば悪い時期もあり、残念ながら魔法のセクターはありません。そのため、全体的にバランスがとれるような投資戦略、つまり分散投資を考えることが必要です。一般的な分散投資は、例えば株式以外にFXとコモディティなどのように異なる資産クラスの金融商品を保有してリスクを分散するポートフォリオを構築します。この詳細は、FXと株式の比較とコモディティと株式の比較をご覧ください。
景気後退期に強いセクターは?
歴史的に見て、景気後退期に良好に推移してきたセクターは、一般消費財、公益事業、ヘルスケアセクターなどの非景気循環型セクターです。経済成長率や消費者心理が低下する局面においても、食品、飲料、暖房、医療、電気などの必需品は人々にとって欠かせません。よって、景気後退期でもこれらのセクターは堅調に推移する傾向があります。
特定のセクター全体に投資するにはどうすればいいですか?
特定のセクターに投資したい場合、方法は2つあります。そのセクター内の個々の銘柄を購入するか、セクター全体をカバーする上場投資信託(ETF)を購入するかです。どちらの方法にもメリットとデメリットがありますので、十分に情報を得たうえで判断してください。
まとめ
この記事では米国株のセクターについて解説してきましたが、セクターの分類に明確な決まりはなく、さまざまな基準でグループ分けすることができます。日本株のセクターは、大まかに「技術」「金融」「消費」「素材」「資本財・その他」「運輸・公共」の6つの産業に分類されることが多く、この分類は日経平均株価の採用銘柄のセクターとしても使われています。さらに業種は18~36種程度に分類されることが一般的です。この記事で取り上げた米国株のセクターの特徴は、日本株のセクターにも応用できます。セクターによる銘柄の分析方法をマスターして、取引のレベルを向上させましょう。
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