株式においてトレードや投資を行う目的は、株式や株式ポートフォリオの価格が有利に動くことで経済的な利益を得ることです。ただし、トレードと投資に共通しているのは、この点のみと言っても過言ではありません。株式におけるトレードと投資は、アプローチや手法が大きく異なります。
投資は通常、証券会社の口座を通じて株式の現物を購入します。一方、トレードは株式そのものや、オプションなどの関連デリバティブを通じて、原資産市場で投機的なポジションを取ることを目指します。本記事では、株式におけるトレードと投資の違いや手法の選び方を解説します。
株式トレードとは
株式のトレードについて、以下の5項目で解説します。
- 目的
- 時間軸
- 資金
- 分析
- リスク
(1)目的:短期的な値動きを利用する
株式トレーダーは通常、短・中期的な値動きに注目しながら投機的なポジションを取り、利益を得ようとします。また、頻繁に株式を売買し、市場の短期的な動きを利用します。
例えば、貿易交渉が長引くと輸出企業の生産や販売に支障が出て、株価の下落につながる可能性があります。このような情報が株価に織り込まれると、下降トレンドや売りが展開される場合があり、短期トレーダーは関連する株式や株価指数の売りポジションを構築して利益の獲得を目指します。
(2)時間軸:短期から中期
投資家は長期的な視点で投資を行うのに対し、株式トレーダーは短期~中期的なトレードを行うのが一般的です。株式トレードでよく使われる手法には、スキャルピングやデイトレードなどがあります。同日に複数のトレードを行うことで、小さい利益を積み上げていきます。
(3)資金
株式トレーダーが準備する資金は、トレード費用の一部にあたる必要証拠金のみです。例えば、1株のコストが10ドルで、トレーダーが100株のトレードを希望する際の必要証拠金が50%の場合、トレードの開始時に必要な額は500ドルです。トレーダーは、トレードを開始した後に発生する予想外の値動きを考慮して、取引口座に十分な資金を確保し、常にストップロスを活用することが求められます。
一方、投資家は、借りた資金の支払利息が株式保有の長期的な収益を圧迫することがあるため、証拠金やレバレッジの利用を控えることが多くなります。
(4)分析:テクニカルまたはファンダメンタルズ
トレーダーは多くの場合、テクニカル分析かファンダメンタルズ分析のいずれか、あるいはその2つを組み合わせて分析を行います。テクニカル分析とファンダメンタルズ分析の比較でどちらの方がよいかという議論に明確な答えはありません。
テクニカル分析を用いる株式トレーダーに人気のあるツールには、以下のようなものがあります。
さらに株式トレーダーは、ファンダメンタルズのデータを利用して、トレードする銘柄の魅力(買いまたは売り)を評価することがあります。その会社のファンダメンタルズが強固であれば、トレーダーはその株式を買い、ファンダメンタルズが悪化していれば、売りを狙うことになるでしょう。
株式トレーダーにとって関心の高いファンダメンタルズ要因には、以下のものがあります。
(5)リスク
株式トレーダーはレバレッジの利用が多いため、相対的なリスクが高くなる場合があります。レバレッジをかければ、より大きなリターンを得られますが、一方でより大きな損失が発生する可能性もあります。例えば、レバレッジを利用すると口座の資金が瞬く間に消滅し、トレーダーは最初に入金した金額よりも多くの負債を抱えることがあるのです。損失を抑えるためには、常にストップを使用することがおすすめです。
株式トレードの長所と短所をまとめると、下表の通りです。
長所 | 短所 |
---|---|
短期間で大きな利益を得られる可能性がある | レバレッジによって利益と損失の両方が拡大するため、短期間で大きな損失を被る可能性がある |
頻繁にトレードする機会がある | ペースの速いトレードスタイルのため、慌ててしまい、適切ではないタイミングでエントリーをしてしまう可能性がある |
買い取引と売り取引にトレードできる | |
株式を保有することに比べて、当初の資金が少なくて済む |
株式投資とは
ここでは株式投資について、株式トレードと同様の項目で比較しながら解説します。
(1)目的:長期的な値動きと配当を活用する
株式市場の投資家は、長期的な値動きや配当金から恩恵を受けようとします。投資家は、理想的なエントリー価格を求めてテクニカル分析に大きく依存するのではなく、魅力的(割安)な価格水準で株式を購入し、不況や市場の暴落を乗り越えられる長期保有に重点を置きます。株式投資には、アクティブ(頻繁に売買する)運用と、パッシブ(指数連動型ファンド)運用があります。
投資家は通常、投資を行う前に多くの時間をかけて銘柄をリサーチし、強固なバランスシートと確かな成長余地のある銘柄を探します。しかし、その選択基準は、投資家のリスク選好度に加えて、個別銘柄の購入、または複数銘柄のポートフォリオへの追加など、投資スタイルによって大きく異なります。
(2)時間軸:長期
株式トレーダーが短期的な目標を立てることに対して、投資家は5年以上の長期保有を目指します。主要株価指数を見れば、長期的に見て市場が上昇トレンドを形成していることがわかります。小幅な下落や大きな不況もあるかもしれませんが、長期トレンドは上昇に向かっています。このことから、株式は長期的なインフレヘッジのための魅力的な手段になり得るのです。
なお、企業が投入コストの上昇に直面した場合、通常は製品やサービスの価格引き上げが発生し、そのコストは消費者に転嫁されることがあります。値上げすると、収益の数字も高くなり、株価の上昇に反映されることが多いと言えます。
(3)初期の必要資金:投資の全額
長期投資家は、借りた資金の支払利息が長期の成績に影響するため、信用取引やレバレッジの利用を控えるでしょう。この場合、投資家はレバレッジをかけずに、1株あたりのコスト、つまり1株10ドルで100株、手数料やスプレッドの控除前で1,000ドルを支払えばよいことになります。
(4)分析:ほぼファンダメンタルズ分析のみ
株式投資家は一般的に、ファンダメンタルズ分析を重視します。その一方で、企業の財務諸表を精査し、営業活動によるキャッシュフロー、営業費用、収益の伸び、負債、設備投資、その他企業の業績を明確にする要因をリサーチします。
さらに、企業や株式が株式セクターにおいてどの程度優位な状況にいるかを評価し、競合他社を分析します。通常、それぞれの業界の有力企業や、拡大中の業界で高い成長率を誇る小規模企業に投資することは、有効な選択肢と言えます。
(5)リスク
投資には株価の低迷というリスクがつきものですが、信用取引を利用しなければ、投資家の損失は当初の投資額とそれまでの配当金が上限となります。
経営陣の判断、刻々と変化する市場、技術革新などの要素は、投資の障害となることもあれば成長の機会となることもあり、投資家はいずれもコントロールできません。個々の株価の急落から身を守るために、多くの投資家は1つ、2つの銘柄を保有するのではなく、株式ポートフォリオで分散させることを検討します。
株式投資の長所と短所をまとめると、下表のようになります。
長所 | 短所 |
---|---|
十分な時間があれば、分散投資された株式は市場全般のトレンドから利益を得られる | 成長は鈍化することもあれば、マイナスになることもある |
1日中チャートを見て、取引ポジションを管理する必要がないので、費やす時間は少なくて済む | 購入前のリサーチやデューデリジェンス(企業の経営状況や財務状況の調査)は、非常に時間がかかる |
個別銘柄を購入するか、プロによるポートフォリオ運用を保有するか選択できる | |
配当金や優先株式は、株価の上昇以上の付加価値をもたらす可能性がある |
株式トレードと株式投資の違いとは
下表は、株式におけるトレードと投資の違いをまとめたものです。
トレード | 投資 | |
---|---|---|
目標 | 短期的な値動きを利用する | 長期的なトレンド、配当、会社の成長を利用する |
方法 | 株式、関連オプションまたはその他のデリバティブ商品 | 株式の売買または証券会社の口座 |
時間軸 | 短期~中期 | 中期~長期 |
リターン | 買い、または売りのトレードで勝つ* | 長期的な会社の成長によるキャピタルゲインと配当** |
取引コスト(ブローカーによって異なる) |
|
|
スタイル | スキャルピング、デイトレード、スイングトレード、ポジショントレード | アクティブ運用とパッシブ運用 |
リスク | レバレッジの使用率が高くなると拡大する可能性がある | レバレッジを利用しない場合、リスクは通常、当初の資金支出に限定される |
*リターンはプラスにもマイナスにもなります。マイナスのリターンは、レバレッジによって拡大されることに注意してください。
**投資リターンは、プラスにもマイナスにもなります。ただし、投資家の損失は、初期投資額と未払い配当金を上限とします。
上記を参考にトレードと投資の違いを理解して、自身に適した手法を選ぶことが重要です。
【関連記事】手法の選び方の後は、株式の銘柄探しについて学びましょう。詳しくは、「株の銘柄探し:リサーチの10ステップ」を参考にしてください。
株式トレードと株式投資はどちらがよいか?
トレードと投資のどちらを選択するかについて、一方のアプローチが優れていることを示す根拠は存在しません。個人の目標や目的に合わせて最適な方法を選択することが大切です。
ここでは、株式トレードと株式投資のどちらを選択するか迷っている場合に検討すべきポイントについて解説します。
目的、リスク許容度、時間、資産状況を確認する
株式トレードと株式投資のどちらが良いかを判断するうえで重要なのは、自分の目的やリスク許容度、時間的制約、資産状況などを確認することです。
- 目的:トレードの目的は短期的な値動きから利益を得ることである一方、投資の目的は長期的な資産価値の上昇を狙うことです。自分の目的に合わせて適切な手法を選ばなければなりません。
- リスク許容度:トレードは高リスク・高リターンですが、投資は低リスク・低リターンです。自分のリスク許容度に見合った手法を選びましょう。
時間:トレードは値動きを常に監視する必要があり、投資よりも時間を要します。自分の時間的制約を見直すことが大切です。
資産状況:トレードは一般的に多額の資金が必要ですが、投資は少額からでも可能です。
このように目的、リスク許容度、時間、資産状況など、自分の状況を確認したうえで、株式トレードと株式投資のどちらがよいかを判断することが重要です。
必要となるスキルから選ぶ
投資においては、長期的な視点から社会や経済の動向を読み解き、企業の事業内容や財務状況を分析する力が求められます。一方、トレードでは短期的な価格変動に着目し、需給の動きから市場心理を捉える洞察力と、瞬時の判断を下せる冷静な精神力が必要不可欠です。
つまり、投資は「物事を大局的に俯瞰する力」、トレードは「局所的な変化を機敏に捉える力」がそれぞれ要求されます。自分のスキル傾向を下表を参考に把握することで、適性に合ったスタイルを選ぶ際に役立つはずです。
スキル | 投資 | トレード |
---|---|---|
大局的視野 | ◯ | △ |
企業分析力 | ◯ | △ |
市場心理の読解力 | △ | ◯ |
瞬発力・判断力 | △ | ◯ |
自分に備わっているスキルを冷静に見極め、それに合わせてトレードと投資のどちらを選ぶかを判断してください。
性格診断で適性を把握する
トレードと投資はそれぞれ異なる性格的特性が求められるため、自分の適性を知ることが欠かせません。例えば、性格診断テストを受けることで、自分の長所や短所を客観的に把握できます。
例えば、以下のような性格的特徴があれば、トレードに向いている可能性が高いでしょう。
- 冷静に判断できる
- ストレスに強い
- リスクを恐れない
- 機会損失を気にしない
一方、以下のような特性があれば、投資の方が向いているかもしれません。
- 我慢強い
- 慎重に行動する
- リスクを嫌う
- 長期的視点を持つ
性格診断結果から自分の適性を理解することで、トレードと投資のどちらが自分に合っているのかを判断する手掛かりとなります。ただし、診断結果は目安に過ぎません。最終的には自分で考慮し、適切な判断を下す必要があります。
両方の長所を活かす運用を検討する
投資とトレードはそれぞれ長所と短所があります。そこで、両者の長所を組み合わせた運用も有効な選択肢です。
トレードと投資を組み合わせた運用のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- リスクの分散化:投資で長期保有する銘柄とトレードで短期売買する銘柄を分けることで、リスクが分散されます。
- 収益機会の増加:値上がり益と売買益の両方から収益を得られる機会が増えます。
- スキルの補完:長期の企業分析力と短期の値動き判断力を組み合わせることで、両方のスキルを補完し合えます。
一方で、両者を組み合わせることのデメリットも押さえなければなりません。
- 両方のスキルが必要:投資力とトレード力の両方が求められ、ハードルが高くなります。
- 時間とコストの増加:売買のタイミングを常に意識する必要があり、時間とコストがかかります。
このように長所と短所があるため、自分の目的やスキルに合わせて、採用を検討するとよいでしょう。
【関連記事】株式投資においては精神面を学ぶことも大切です。詳しくは、「株式投資で失敗しないための心理学|トレーダーが知っておくべき心理状況とは」を参考にしてください。
まとめ
トレードと投資には大きな違いがあります。トレードは短期的な値動きを捉えて利益を得ることを目的とし、投資は長期的な資産価値の上昇を狙います。また、トレードは高リスク・高リターンであり、投資は低リスク・低リターンの傾向があると言えます。
さらに、求められるスキルも異なります。トレードではテクニカル分析力や冷静な判断力が必要であり、投資ではファンダメンタルズ分析や忍耐力が欠かせません。どちらを選ぶかは、目的やリスク許容度、時間、資産状況などを確認し、自分に合ったスタイルを選ぶことが重要です。
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