原油は世界で最も活発に取引されている商品のひとつですが、それにはもっともな理由があります。原油は経済を次第に不況に陥れる力を持ち、政治にも常に関わっています。
一般に最も多く取引されている原油の種類は、WTIとブレントです。WTI原油とブレント原油の主な違いをよく理解し、十分な情報に基づいて取引の決定を行いましょう。
そもそも原油取引とは?
原油とは、油田から採掘された未精製の石油のことを指します。原油は地球の地下に自然に存在する液体の炭化水素の混合物で、長い地質学的時間をかけて、主に古代の微生物や植物の遺骸が高温・高圧の下で変化し生成されたものです。ガソリン、ディーゼル燃料、航空燃料、潤滑油、および多くの化学製品の原料として石油精製を通じて使用されます。
原油はその組成や品質によって異なる特性を持ち、軽質原油や重質原油、甘い原油(硫黄含有量が少ない)や酸っぱい原油(硫黄含有量が多い)などに分類されます。世界経済において重要な役割を果たすこの資源は、エネルギー供給の主要な源であり、多くの産業の基盤となっています。
原油は基本的に値動きが比較的大きい金融商品であり、最近ではその値動きがさらに大きくなる傾向にあります。値動きが大きいということは、トレードでの利益を出すチャンスが増えているということです。原油の取引方法としては、海外FX市場ではCFD(差金決済取引)や先物取引が一般的です。
FXにおける原油取引の銘柄は2種類
FXで原油の取引を行う場合、対象となる銘柄は下記の2種類です。
- WTI原油(USOIL)
- ブレント原油(UKOIL)
WTI原油(USOIL)
「WTI原油(USOIL)」は、アメリカ合衆国で生産される高品質の原油の一種です。「WTI」という名称はWest Texas Intermediate(ウエスト・テキサス・インターミディエート)の略で、特にテキサス州やルイジアナ州、北ダコタ州などの地域で産出されます。
WTI原油は、その低硫黄含有量と軽質の性質から「軽質甘原油」とも呼ばれ、ガソリンやディーゼルなどの高価値燃料への精製が比較的容易です。このため、WTI原油は世界的に高い需要を持ち、国際的な原油価格の基準の一つとして広く用いられています。
ブレント原油(UKOIL)
「ブレント原油(UKOIL)」は、北海で産出される原油の基準種として広く知られています。この名称は、北海のブレント油田に由来しており、主にイギリス、ノルウェー、デンマーク、オランダの沖合で採掘されます。
ブレント原油は、その品質が軽質で甘い(低硫黄含有量)ため、ガソリンやディーゼルなどの高価値燃料への精製が比較的容易です。この特性により、ブレント原油は世界的に高い需要を持ち、特にヨーロッパ、アフリカ、中東の市場で重要な役割を果たしています。
WTI原油・ブレント原油の取引方法は2種類
FXで原油取引をする場合、選択肢として下記の2種類が挙げられます。
- CFD取引
- 先物取引
CFD取引と先物取引はトレードスタイルが異なるため、投資方法を選ぶ際にはそれぞれの特徴を理解し選択することが重要です。
CFD取引
CFD取引(差金決済取引)は、実際に投資対象を所有するのではなく、その価格の上昇や下降から利益を得るための方法です。CFD取引では、少ない資金で大きな取引を行うことができる「レバレッジ」という概念が使われます。レバレッジは、少額の証拠金で大きな取引ができるというものですが、利益が大きくなる可能性がある一方で、損失も同様に大きくなるリスクが伴います。
CFD取引の魅力の一つは、市場の価格が上がる場合にも下がる場合にも取引のチャンスがあることです。価格が上がると予想すれば「買い」を、下がると予想すれば「売り」を選択できます。これにより、市場の動きに応じて柔軟に対応することが可能です。
また、CFDを通じて原油だけでなく、通貨、商品、指数、株式など多様な市場にアクセスできます。取引コストは一般的に低い傾向にありますが、レバレッジを利用することによるリスクや、保有期間に応じた追加コストも考慮しなくてはなりません。
CFDは特に短期間での価格変動を利用する取引に適しており、デイトレーディングなどの戦略によく用いられます。
先物取引
原油の先物取引は、1~3ヶ月後などの定められた将来の特定の日にポジションが決済され、その時点での損益が確定する方法です。この決済日は「限月」と呼ばれます。このため、限月が設定されている先物取引は、CFD商品のように限月がない取引と比べると、長期的な投資にはあまり適していません。
先物取引の大きな目的の一つは、価格の変動からくるリスクを軽減することです。例えば、農家が収穫物の価格が将来下がるリスクを避けるために、先物市場で事前に売る契約を結ぶことができます。一方で、投資家は価格の変動を利用して利益を得るために先物取引を行います。これらの投資家は実際に商品を受け取ることはなく、価格の上昇や下降による差益を目指します。
先物取引は高額な証拠金が必要な場合がありますが、CFD取引のような価格調整はなく、日をまたいでも追加損失は発生しません。
WTI原油とブレント原油の5つの主な違い
WTI原油とブレント原油の主な違いは、次の5つの点です。
WTI | ブレント | |
---|---|---|
採掘地域 | 北米 | 北海 |
地政学リスクへの感応度 | それほど敏感ではない | 敏感である |
成分・組成 | 硫黄0.24%API 39.6度 | 硫黄0.37%API 38度 |
取引場所 | ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX) | インターコンチネンタル取引所(ICE) |
価格とベンチマークの差 | ディスカウント(対ブレント原油) | プレミアム(対WTI原油) |
1. 採掘される地域
ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)
WTI原油は、米国の油田から採掘されます。主にテキサス州、ルイジアナ州、ノースダコタ州で採掘され、その後、パイプラインでオクラホマ州クッシングに輸送され、配送されます。
2000年代初め、当時は不可能と考えられていた頁岩(シェール)からの石油抽出が技術開発によって可能になりました。このことは「シェール革命」と呼ばれ、米国の石油生産量の大幅な増加をもたらしました。
ブレント原油は、北海の油田から採掘されます。「ブレント原油」とは、4種の原油を混ぜ合わせたものです。これらの原油はブレント、フォーティーズ、オゼバーグ、エコフィスクで、総称してBFOEといわれます
2. WTI原油とブレント原油の地政学上の違い
産油国の不安定な政治体制やOPEC産油量の増減など、地政学上の問題が原油価格に大きな影響を与えることがあります。米国以外の主要産油国は、財政収支を原油に依存しています。これらの国の政治体制は歴史的にかなり不安定なため、原油の生産が危ぶまれると、原油価格、特にブレント原油は急騰します。
主要産油国の多くは石油輸出国機構(OPEC)に加盟しており、主要加盟国にはサウジアラビア、イラン、イラク、ベネズエラ、ナイジェリアが含まれます。そして、OPEC加盟国の収入のかなりの部分が原油によるものです。OPECは加盟国による原油生産の増減を通じて、原油価格の安定を図ろうとしています。
原油の取引に関しては、ブレント原油のトレーダーは世界最大の原油生産国のひとつである中東の緊張の高まりに注意が必要です。地政学的緊張は、原油の供給不足が直ちに、あるいは今後起きると予測しての取引を市場に引き起こし、価格の急激な変動をもたらす可能性があります。下の地図は中東の原油生産量を示しています。
WTI原油のトレーダーも同様に、米国の需給要因を注視しています。ブレント原油かWTI原油、いずれかの供給が止まれば、両者間のスプレッドは変動し、一方の相場が他方に対してより激しく動く可能性があります。
出所:米国エネルギー情報局(EIA)
3. WTI原油とブレント原油の成分と組成
ブレント原油とWTI原油では硫黄の含有率とAPI比重(API度)が大きく異なり、このことは原油価格に直接影響を与えています。
WTI原油は硫黄分が0.24%と比較的低く、一方でブレント原油は硫黄分が0.37%と少し高いです。原油の品質は硫黄含有率によって評価され、硫黄含有率が低いほど「スイート(甘い)」と呼ばれ、精製がしやすいとされています。この基準に基づくと、WTI原油もブレント原油もスイート原油のカテゴリーに属します。
原油の比重は10から70の度数で評価され、数値が高いほど原油の密度は低くなります。これを整理すると、API度が10より大きい原油は水に浮き、10より小さいと沈みます。ブレントもWTIも比較的軽い原油です。
WTI | ブレント | |
---|---|---|
硫黄含有率 | 0.24% | 0.37% |
API比重(度) | 39.6 | 38 |
トレーダーは需給の変化を注視していきたいと思うでしょう。例えば、IMO規制の強化は軽いスイート原油の需要を増やすかもしれません。そうなればWTI原油とブレント原油の需要も増す可能性があります。
4. 原油の取引場所
原油が取引されるプラットフォームは地域によって様々です。原油取引の主な方法のひとつに先物取引がありますが、WTI原油先物とブレント原油先物には違いがあります。
WTI原油の先物はシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループが所有するニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引され、オクラホマ州クッシングで受渡しされます。クッシングは精製業者と供給業者へのアクセスがしやすく、パイプラインと貯蔵施設が交差する積み換え地です。
ブレント原油の先物は、ロンドンのインターコンチネンタル取引所(ICE)で取引されています。
WTI原油先物とブレント原油先物の取引概要は、以下の通りです:
WTI | ブレント | |
---|---|---|
取引単位 | 1,000バレル | 1,000バレル |
取引通貨 | 米ドル、米セント | 米ドル、米セント |
現物受渡し | 可能 | 可能 |
銘柄コード | CL | BZ |
WTI原油先物とブレント原油先物は取引時間も異なります。
WTI原油先物の取引時間:
- 日曜日~金曜日、午後5:00~午後4:00(各日午後4時から60分間休場、米国中部時間)
ブレント原油先物の取引時間:
- 日曜日~金曜日、午後7:00~午後5:00(米国中部時間)
5. WTI原油とブレント原油の価格とベンチマーク
かつてWTI原油はブレント原油に対し、高値で取引されていました(プレミアム)。しかし、2000年代初めのシェール革命(WTIの生産量が増加)と、カナダから米国への原油輸入が増加したことで、WTI原油の価格は下落しました。現在、WTI原油はブレント原油に対し割安な価格で取引されています(ディスカウント)。
今日、米国ではWTI原油が原油価格のベンチマークとなっていますが、その他の地域では原油取引の3分の2近くがブレント原油です。そのため、ブレント原油が世界的なベンチマークとされています。
WTI原油とブレント原油の価格差は、WTI原油-ブレント原油スプレッドとして知られています。それぞれの原油の需給は地政学上の問題、天候、規制によって増減するため、このスプレッドは時々で変化します。
下のチャートは、WTI原油とブレント原油の価格差を示しています。
IG証券のPro Real Timeチャートで作成:アブダラ・アルアモウディ
こちらをクリックすると、WTIとブレントの価格をリアルタイムチャートでご覧いただけます。
WTI原油・ブレント原油取引時に注目すべきニュース
WTI原油とブレント原油は通常、似たような価格差(スプレッド)で取引されますが、供給や需要に影響を与える事象が発生すると、一方の価格が他方よりも大きく変動することがあります。例えば、中東の政治的緊張や北米の自然災害は、これらの原油の採掘や精製に影響を及ぼす可能性があります。
トレーダーにとっては、原油に関連するニュースを常にチェックし、WTIとブレントの間のスプレッドの動きに注意を払うことが重要です。スプレッドの変動は、どちらかの原油における供給や需要の変化を示している可能性があり、これを理解することは効果的な取引戦略を立てる上で役立ちます。
ニュースで原油に関する情報を得る時には、下記の分野に注目するのがおすすめです。
- OPECや原油生産国の政治経済状況
- 産油国に関連する紛争や軍事行動
- 世界経済の状況
OPECや原油生産国の政治経済状況
原油価格は、OPECや原油生産国の政治経済状況に大きく影響されます。インターネットを活用してこれらの情報を定期的に確認しましょう。
例えば、原油生産量が増加し市場に供給過剰となると、価格は通常下がります。逆に、需要が供給を上回る場合、価格は上昇する傾向にあります。
原油価格の変動を予測する際には、OPECや主要な原油生産国の最新の動向に注目することが効果的です。OPECや原油生産国の政治経済状況は原油市場に直接的な影響を及ぼすため、価格の動きを理解する上で重要な要素となります。
産油国に関連する紛争や軍事行動
中東の産油国やロシアのような埋蔵量が豊富な国では、紛争や軍事行動により原油の供給に支障が出ることがあります。たとえば、ロシアがウクライナに侵攻した際、エネルギー価格は大幅に上昇しました。この影響で、WTI原油価格は一時的にバレルあたり130ドルまで急上昇しました。
このように、産油国での政治的・軍事的な動きは原油価格に大きな影響を与えることがあり、市場の動向を把握するためには定期的なニュースのチェックが不可欠です。
世界経済の状況
原油は石油製品の基本素材であり、石油の需要に大きく左右されます。例えば、新型コロナウイルスによるロックダウン中は石油需要が大幅に減少し、その結果、原油価格は史上初のマイナスを記録しました。
しかし、ロックダウンが解除され、石油需要が回復すると、原油価格も上昇し、経済の復興が期待されます。このように、原油価格は石油の需要や世界経済の状況に応じて変動するため、これらの要因を注視することが重要です。
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